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「よし、基本の型は申し分ないな。むしろ俺が教わりたいくらいだ」

「はい、ありがとうございます!」

二人が手に持つのはさっきライムが作った刀――と同じ形をした木刀である。服は専用の動きやすさを重視に作られた服、つまりはジャージを着ていた。ちなみに、ライムのものは薄緑を基調に白のライン、カレルは青を基調に白のクロスラインのデザインである。

カレルは訓練の最初のステップとして振りの基本型を教えるつもりだったが、いざやらせてみると、剣道の最高段者並みの型を披露してくれた。

「じゃ、ちょっと手合せしてみる?」

「お願いします!」

 と、いうわけでカレルは実戦をしようという結論に達した。

「ルールは……剣戟と体術だけで」

「分かりました」

「じゃ、はじめっ!」

 バッ

「「…………」」

 二人は少し距離を取り、それぞれ構えを取る。ライムは平正眼(中段)、カレルは、右手だけで刀を握り右半身を前に出す形で、それぞれ対峙する。彼我の距離は5歩半というところ。

 カレルは相手の出方を見つつ集中力を高め、反撃の体勢を作り、ライムが飛び込んでくるのを待つ。

 当然ながら、先に動いたのはライムだ。

 5歩半の距離を一瞬で詰め、カレルの眼前に現れる。それにカレルは空いている左手の正拳突きで迎え撃ち、ライムが横に回り込んでかわすところに踏み込み、右手の木剣を袈裟に振り下ろす。ライムは剣戟に木剣をぶつけていなし、剣戟を頭上で見送ると返す刀でカレルの右脇腹を狙って木剣を振る。が、カレルは跳躍で後ろに下がり、ライムの射程から離れていた。

カレルは木剣を左の逆手に持ち替え、次の動きを考えながら声をかける。

「ふぅ……。ホント気が抜けないね」

「こっちもですよ。今のは入ったと思ったんですが」

 新たに二人の間にできた空間は9歩分、やや広めの間合いを、

「じゃ、今度はこっちから―――いきますかっ!」

 カレルは5歩の間合い、それを時間にして一秒足らずで詰め、

「速―――!」

体の回転から左手を振りぬき、遠心力の乗った横一文字を繰り出した。

「くっ…!」

 ライムはそれを木刀で受け止めるが、威力に押され腕が痺れてしまう。

 その間にもカレルの攻撃は続く。

 回転した体をもう一回転させ、軸足の右足の膝を畳みながらその勢いのまま左足をライムの足に向けて滑らせる。

「しまっ――!」

 それにライムは対処できず、ライムの両足は空中に投げ出された。当然、体は無防備なまま宙を舞う。その一瞬でカレルはライムに近付き、トドメ―

 ぼふっ

「――え?」

 ではなくライムの体を受け止めた。俗に言うお姫様抱っこで。

「―――――っ!!」

 ライムは顔が紅潮するのを抑えられなかった。さっきまでは全力で戦闘をしていたと言うのに、予想外の対応に理性が惑わされる。カレルが何か言っているようだがとても聞ける状態ではない。

「―――ってわけだから、今日はここまで! ……ライム、聞いてる?」

「あ、あの……」

「何?」

「そ、そろそろ……降ろして……ください……」

「あ、悪い」

 真っ赤な顔でライムが言うと、カレルはライムのそれが移ったのかのように少し頬を染め、ライムを降ろした。

「で、だよ。今日の訓練は終わり。感想は、基本の型は完璧。戦闘技能もすごく高いけど、足元がちょっとお留守かな。最後の足払い、反応できなかったでしょ?」

「はい……」

 カレルの忌憚なき意見でライムはわずかにうつむいた。が、

「そこを気を付けていけば、問題ないよ。ってか、初日にしては十分すぎ。俺の予定のカリキュラムが2か月分縮まったよ。」

「分かりましたっ!」

 カレルの励ましに顔を上げ、笑みを作った。

「じゃ、風呂入って部屋に戻ろう」

「そうですね。大分汗かきましたし」

 ライムは汗にまみれたインナーを気にしながらつぶやいた。(この汗の7割は訓練が終わった後のものであることはカレルには内緒だ)

「ちなみに浴場だけど―――」

 ―――なぜか嫌な予感がするのはなぜだろうか。

「ほとんど混浴に近いよ」

 ―――やっぱりー!

 ライムは自分の直感は割と当たることを認識した。

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