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理(ことわり)とは何か?

 

 どんな世界にも必ず理というものがある。

 それには、その世界に生きる者は抗うことはできない。

 だからこそ、起きてはならない、起きようがない事柄もある。

 

 しかし、もしそのような“理不尽”な事が起こってしまったら?

 

答えは簡単。

 

その世界に“理不尽”が与えた影響ごと、その“理不尽”を消し去るのだ。

銃は悪とされている国の警官が銃を持つように。

“理不尽”を合理化する“理不尽”を用いて…。

 

これは、理を守る、理から外れた者たちの物語。

 

 Episode0 理の守護者

 

 いつも通りの日常。

 いつも通り家を出て、

 いつも通りバスに乗り込み、

 いつも通り本を読む。

 きっと、みんなもそうしているだろう。

 互いのことなど考えもせず。

 

 いつもと違ったことはひとつだけ。

 通学に使っているバスが、

 突然、

 爆発を起こしたこと…―――

 

 

 

「うう…、何が…、何が起こったの…?」

 私は、爆発の時に吹き飛ばされたらしく、傷の痛みで動けずにいた。

 そう、爆発だ。

 突然、爆発が起こったのだ。

 …なぜ?

『……まさか生き残りがいるとはな――』

 …だれ?

『このまま死にゆくくらいなら――』

 誰…? この人…?

『ここで私が屠った方がまだましだろう…』

 いや…! 来ないで…!

『さらばだ―…そして、また――』

 ズドッ

 うっ―――――……

 

 薄れていく意識の中、赤いローブを見た気がした。

 

『……お………おい! 大丈夫か!?』

 ん……?

 どれくらいの時間がたったのだろう? 私は誰かの声で目を覚ました。

「は…はい……。…ッツ!」

 目は開けられたけれど、体のあちこちが痛い。胸から流れている赤いものは私の血なんだろうか…?

『やっぱり、この出血じゃ、どうしようも…。…!』

 ああ、なるほど。だから体が動かないのか。

『…。生きたい? 辛いよ、『この世界』で生きるのは』

 いやだ…! 死にたくない…!

「死にたくない…! 生きたい…!」

『…分かった』

 その声を聞いた瞬間、私の意識はなくなった。

 

 

 蒼髪碧眼のふわりとしたショートヘアに、一掴み分の後ろ髪が銀長髪の少年は、魔法陣の前で叫んだ。

「我、氷皇の名に於いて、理不尽により生を奪われ、理によって消し去られた哀れな魂に留まる場を与える。我らが父よ! 彼の者に使命と名と守護者の力を与えよ!」

そう言うと、彼(・)は横たわる少女を中心に描かれた魔法陣に金色の直剣を突き立てた。

 魔法陣が作動し、満身創痍の少女に力が流れ込み体の傷を癒していく。

 少女の傷が治りきると、天から光の球が降りてきて彼女の胸に吸い込まれていった。

 その瞬間、彼女の体に変化が起きた。

 彼女の黒髪は色を失い、代わりに薄緑色が彼女の髪を侵食していく。

 同じく彼女の瞳も色が変わり、美しい緑色へと変わっていった。

 変化が一通り終わり落ち着いたところで、彼は彼女に声をかけた。

「気が付いた?」

「う…ん。あなたは?」

「俺は、カレル・R・イメシスレイ。お前は、なんて名前になった?」

 おかしな問いかけに首をかしげると、彼女の脳裏に言葉が浮かんできた。

「私は…ライム・K・アウレリア。……ここは、どこなの?」

「まぁ、簡単に説明すると、ここは世界の狭間…ってとこかな。」

「世界の狭間?」

「つまりは、世界と世界の間のクッションのような空間だよ。…そうだね、詳しい話は安全な場所でするよ」

「え…? ここは安全じゃないの?」

 彼女の疑問はもっともだ。周りは普通の草原で、危険があるようにはみえないからだ。

「まぁ、今は大丈夫だと思うけど、ここら辺は何が出てもおかしくないからね―――」

 そう言いながら、彼は手の中に魔力を集束、結晶化させ、刃渡り60cmほどの一振りの直剣を作り出し、ライムに渡した。

「え、カレル? これって…」

「そういうことだよ。場合によっては戦闘になるからさ。とりあえず護身用に」

「でも、私、本物の剣なんて…」

「大丈夫。扱い方は知っているはずだよ」

「…?」

 ライムはカレルがおかしなことを言っているとは思ったが、自分でも驚くほど素直に今の状況を受け入れていた。突然剣が出てきたこと、それを渡されて扱い方が脳裏に浮かんだことなどが原因だろう。

 少しの間体の動きを確認していると、カレルが突然口を開いた。

「ライム、準備体操はそこまで。―敵が来た」

「えっ!?」

 彼らはいつの間にか現れた、一ツ目のロボットの大群に囲まれていた。

「…流石に今この数をまともに相手は無理だな。支部の方角の奴だけ薙ぎ倒す!」

 そう言ってカレルが腕を一振りすると、さらに銀色の直剣が現れ彼の右手に収まった。

「ライム! こっちだ!」

「はいっ!」

 カレルは走りながら左手を中心に魔法陣を展開し、魔力を注いでいく。

「くらえ! “氷弾之雨(ブリザドシャワー)”!」

 そして、魔法陣からは大量の鋭く細長い氷弾が撃ちだされ、二人の眼前の敵を貫いてゆく。二人が包囲網に衝突するときにはすでに突破口は開かれていた。

「カレル、今のは何!?」

 カレルの後を走りながらライムは叫ぶ。

「魔法だよ。使い方は後で教えるから今は逃げよう!」

「でも、このまま逃げたら、えっと…支部? の方にこいつらが来るんじゃない? 全部を相手は無理なんでしょ?」

「それは大丈夫。さっき支部に連絡して増援を頼んだから、そっちと合流してから全滅させる」

「了解! 後どれくらい?」

「ここのゲートまでは後2kmくらい。っと、回り込まれたな……」

見ると、10体ほどの敵が立ちふさがっていた。瞬時にカレルは氷弾を乱射するが、数体は残った。

「切っとくから、足は止めんな!」

「はい!」

 聞くと同時にカレルは跳躍し、勢いをつけて一体に切りかかり、首を刎ね飛ばす。続いて着地と同時に体を回転させ、さらに一体の胴を両断した。

 さらには放たれるビーム砲を体をずらして躱し、そのまま回転して下から切り上げて胴体を分断する。当然ながら、カレルはここまでの動きの中走ることをやめていない。

 障害を取り払ったことで、カレルたちの速度はさらにあがり、しばらくするとゲートが見えてきた。

「あれなの?」

「ああ。もうちょっとだ!」

 そしてゲートにたどり着き、まさに入ろうとしたところで、誤算が起きた。

 追いついてきたロボの一体がビーム砲を放ったのだ。

「ぐっ――!?」

 背後からのビーム砲が、カレルの胸に大穴を空けた。

 さらに―――

「きゃあぁあっ!」

「ら、ライム!?」

 運悪く直線上にいたライムにも、ビーム砲は命中した。

 よりにもよって、心臓の位置に。

(マズイ…! とりあえずゲートに入らないと…!)

 カレルは力をふりしぼり、ライムを抱えてゲートをくぐった。

 が、

(……援軍が来てない……!? っ……傷が…!)

 辺りに誰かがいる様子は無い。それが何を意味するか、二人は気付いていた。

(……しょうがない、ゲートを閉じよう!)

「はあっ!」

 カレルは魔力を結晶化させていた銀髪を引きちぎり、糸状にしてゲートに絡ませ一気に引き絞った。

 ゲートの口はどんどん閉じていき、やがて完全に閉じたのち、カレルの手には余った銀髪が残った。

「さてと…後はライムのケガだな…こりゃ、心室(コア)までいったな…」

 痛む体を引きずりながら魔力を変質させ、ライムの胸の穴を塞ぐために手を当て―――

 フニッ

「…………」

 赤面しながらも魔力を流し込み、魔力が傷を塞いだのを確認してから、カレルは支部に改めて救援隊要請のシグナルを送った。

 カレルの意識はそこで途絶えた。

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