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Episode1 新人守護者

 

「―――んで、ここが正式にライムの部屋だよ」

 宴の翌日。朝食後にカレルはライムと合流し、彼女の部屋へ案内していた。

 ちなみに、第7支部は3階構造になっていて、一階は任務の受付をする窓口、アリスがいる医務室、昨日歓迎会の行われた食堂がある。

 二階は素材置場、ジャンの店、訓練場が壁に沿うようにあり、中央のスペースは中央広場だ。

 三階は居住区、集会所兼図書室、それに隣接してエルジラの部屋、つまり支部長室があり、共用の浴場もある。(それぞれの部屋に風呂はない)

「個人部屋のロックは、魔力認証システムで開くから、やってみて」

「はい。―――これですよね?」

 ドアの横についている小さな液晶を指さして確認を取るとカレルは頷いたので、ライムは液晶に指を触れ、魔力を流し込み、ドアを開けた。

「いい部屋ですね~」

 部屋は12畳ほどの正方形で、部屋の片隅にはベット、そのすぐ近くに連絡機や物置、ごみ箱などを兼ねるターミナルが設置されている。もう片隅には机があり、何やら機械らしきものもついている。横からカレルが「それは研究用だ」と耳打ちした。

「んで、隣が俺の部屋」

「へえ、どんな部屋なんですか?」

 カレルがドアを開けるのを待ちきれず、ライムはカレルの部屋の認証システムに触れた。

「いや、開くわけ―――」

 ウィィィイイン

 ない、と言い切る前に、ドアは普通に開いた。

「……カギをかけ忘れたかな?」

 カレルはしっかりとドアが外出用になったのを確認して、念のため、もう一度ライムに認証させた。

「今度は開かない―――」

 ウィィィイイン

 はず、と言い切る前に、ドアは普通に開いた。

「……故障かな?」

 カレルは再び設定をし直して、

「おうカレル。ライムちゃんの案内か?」

「お、タッカ。ちょっとこの扉認証してみてくれない?」

 たまたま通りかかったタッカに認証させ、

 バリバリバリ!

「あばばばばば!」

 先ほど設定した、認証不一致だった場合のトラップが作動した。

「やっぱ故障じゃないな…。なんでだろ?」

「……カレル……ハメやがったな……」

 とはいえ、タッカも同じことをしているので自業自得といえばそうなのだが。

 床に転がるタッカを無視して思考すると彼は一つの仮定にたどりついた。それは、

 ―――俺とライムの魔力の質が、全く同じなのか?

 というものだった。

「ライム、ちょっとごめんな」

 一応断ってからライムの部屋の認証システムに指をあてた。すると―――

 ウィィィイイン

「え? なんで開いたんですか?」

 まるで自分の部屋のように、ドアはすんなり開いた。

「……ライム。理由はわからないけど、俺たちの魔力の特徴が、かなり似てるみたい」

 認証システムにも違いが判らないくらいのレベルでね、とカレルは続けた。

「えっと、つまり」

「俺もライムも、お互いの部屋に自由に出入りできる」

「なるほど、夜ば―――げふっ」

「……タッカ、ただでさえ面倒なのに、これ以上こじれさせないでくれ…」

 カレルはタッカに蹴りを入れて黙らせると、ライムに向き直った。

「……と、いうわけだから、俺が信用できないならナンバーロックでもしてね」

「え、でもカレルさんは?」

「俺は別にいいよ。なんか用があったらいつでも」

「そ、それって……(ぽっ)」

「ちょっと待って、今何を考えた?」

 頬を赤らめるライムを説得しながら、二人は次の目的地に向かった。

 

 

 

 居住区から出てすぐの中央広場を歩きながら、カレルは尋ねた。

「そういえばライム。お前の神機って何?」

「神機って何ですか?」

 やっぱりか、とカレルは肩をすくめた。

 神機とは、守護者になった時に“父”から支給される特殊な武器で、個々によって能力や形状も異なる。基本的には属性が強いほど神機も強くなる傾向にある。とカレルは説明した。

「カレルさんの神器は……あの剣ですか?」

「二本あるんだけど、あの時はまともに力を出せなかったからね」

 聞けば、カレルはあの時単騎で城を数か所落としてきた帰り道だったという。小規模とはいえ単独で1万人近くを相手にしてきたというのだから底が知れない。

「じゃあ、万全だったらあのロボたちも…?」

「ああ、守りながらでも何とかなったよ。……ゴメンな。守れなくて」

「いや、いいですよ。アリスさんも言ってたじゃないですか。私たちはちゃんと生きてるって」

「……ありがと。…っと、俺の神機の話だったな。」

 カレルは左手を一振りし、金色の直剣を呼び出す。

「こっちが、“崩氷剣ラグナロク”」

 続いて右手を一振りし、銀色の直剣を呼び出す。

「こっちが“連凍剣スレイプニル”」

 カレルの話だと、ラグナロクは斬ったところの結合を破壊、魔力に変換する剣で、スレイプニルは斬ったところから凍結させていく剣だそうだ。

 それぞれの効力は、注いだ魔力に比例、対象のレベルに反比例するらしい。

「すごいですね! 私は…まだ…」

 そう。ライムはまだ神機を持っていない。カレルたちはコアから呼び出す形で具現化して、後は使いやすいように好きに収納してる、という話だった。例えば、カレルは両手の手の甲に入れ墨の形で収納している。

 だが、ライムはコアの中身が流出しているため、神機を呼び出すことができなかったのだ。

 そんなライムにカレルは「まあ、気を落とすな」と言ってから階層移動のゲートに乗った。

「ちゃんと対策は考えてある。……っと、着いたぞ」

 歩きながら話しているうちに目的地へと到着した。

 そこは、二階のゲートからまっすぐ歩いたところにあり、横30mほどにも

展開しているジャンの店である。

 店の中には、治癒力を増強させる傷薬や、魔法を使うときに自身の魔力の代わりに使用できる魔力の結晶をはじめとする薬類、剣や槍などの武器類、そして、素材などの取引の注文をするターミナルがある。さらにこの店は、同じ階の中で階段を設置しより多くの商品を展示していて、二階は主に服や娯楽などらしい。……さりげなく(自主規制)が売られているところもある。さすが変態店主。

「ジャン、いるか?」

 店内に入りカレルがジャンを呼ぶと、

「いるぜ」

 ジャンが顔を出した。

「…なぜそんなとこから…?」

 ――天井から。首だけが下の階に来ているので、天井に首が埋まっているようにさえ見える。

「どうだ、すごいだろう? 研究成果だ」

「……それはいいが、またお前はそんな……」

「そういえば、下から顔を出したら蹴られるんじゃないですか……?」

 …………

 一同の脳内に、買い物中に下から生首が出てしゃべりだすというホラー映像が再生された。

「ってかジャン。お前はスカートを覗きたいだけだろ」

「その通り!」

「あの……蹴られちゃうと思いますよ……?」

「スカートの中の映像さえ見れれば、蹴られるくらいどうってことない!」

「いっぺん死ね」

 とことん変態である。しかも無駄に高度な技術を使っているのが腹立たしい。

「……まあ、お前の変態趣味は置いといて、今日の用事はライムに得物を調達したいと思ってさ」

 なるほど、とライムは納得する。この「超一流の変態ヤンキー技術屋」ならば、質も申し分ないものが手に入るだろう。

「そうか。じゃあライム。お前さんはどんな武器がいい?」

「え、でも私……お金ないです……」

「あ、それは大丈夫だよ。初回はタダだし、気に入ったのを選んで」

「と、いうわけだ。なんでもいいぜ?」 

 そう言われて、ライムは少し考える。

「あの、どんなのがあるんですか?」

「なんでもある」

 ………

「カレルさん、お勧めはなんですか?」

「……ロケランとか?」

 …………

あ、そういえば、

「カレルさん。前に作ってもらった剣とかダメですか?」

「ああ、あれな。……せっかくだから―――」

 いいながらカレルは左手でライムの右手を取る。

「え…カレルさん?」

 ちょっとドキッとしたライムに気づかず、カレルは続ける。

「ライム、作りたい剣をイメージして。その通りに結晶化させる。」

「わ、わかりました」

 カレルの手の温もりを感じながら、ライムは自分の得物をイメージする。

 思い描くのは、美しい反りを描く刀。

 銘は、『アウレリア』。

「どうですかカレルさんっ?」

ライムが眼を開けると、ひどく疲れたような顔でカレルが立っており、右手には一振りの刀が握られていた。

「疲れた……。ま、こんなもんでいい?」

 カレルから刀を受け取り、握ってみる。

―――手にぴたりと吸いついてくるような握り心地……最高!。

「凄過ぎますよカレルさん! 完璧に思った通りです!」

「それはよかった。じゃ、それちょっと貸して……ジャン、出番だよ」

「あいよ」

 カレルはライムから受け取った刀をジャンに渡した。

「えっと、今から何をするんですか?」

「この刀…『アウレリア』は、今はただ魔力を結晶化させただけなんだよ。んで、この刀の形状を魔法陣に記憶させて、魔力を流し込めば具現化できるようにする。」

 そう言っている間にも作業は進み、すでに刀は魔法陣に変換されていた。

「そういえばライムちゃん、この魔方陣は何に刻み込む?」

「どういうことですか?」

「要するに、何から呼び出すか、ってこと」

 そういわれて、ライムは少し考え、答えをいう。

「ネックレスでお願いします。できれば十字架(ロザリオ)の」

「了解だ。店の中から好きなのを取ってきな」

「はい!」

 ライムがとたとたと歩いていき、二人が待つ間、ジャンは一言、

「十字架好きとは、お前みたいだな?」

 返すカレルも一言、

「……かもな」

 そう言って、カレルは服で隠していた十字架のネックレスを撫でた。

 その後、ライムが選んできた小さな十字架のネックレスに魔法陣を刻み、一段落したところで、ジャンは思い出したように話し出した。

「あ、そういやカレル。頼まれてた銃、完成したぜ」

「ホントか!?」

「ああ、これだ」

 ジャンはカウンターから1丁のハンドガンを取り出した。

 サイズは銃身が22㎝ほど、握りはカレルの手に合うように設定されている。

「この銃は弾も撃ち方も少し特殊でな、弾は、本来火薬があるところに魔力を結晶化させたものを使ってる。んで、引き金を引くと魔晶が爆発する…つまり体積が強烈に膨張することで弾を撃つ、って仕組みだ。弾丸に魔法陣を刻むこともできる」

「なるほど。じゃ、鉛玉以外でも、サイズさえ合えばなんでも撃てるってことか。」

「当然魔晶は自分でつけることになるが……お前は大丈夫だろ」

「ああ。んで、それいくら?」

「30万」

「ボッタクリかよ……。まあいいけどさ。」

 そういいながら、カレルは端末をジャンのものに近づける。

 ピピ……30万G(ゴールド)の取引を認証しました…。

 端末からそんな音声が聞こえてくると、ライムは首をかしげた。

「そういえば、そのGの相場って、どれくらいなんですか?」

「難易度低めで一回の任務をこなせば、基本給で1万くらい。ちなみに、さっきジャンがやった作業は30万くらいのはず」

 聞いたとたんに、ライムは血の気が引くのを実感した。30万Gを稼ぐためには、30回近くも任務をこなす必要があるのだ。…壊したらマズイ。

「てか、難易度が上がれば報酬も増えるし、任務で得た素材ももらえるから、割とすぐに30万は貯まるよ?」

「こいつとかにはヤバイ任務しか回ってこねえしな」

「うるさい黙れ」

「しかも、ほとんど単独でやってるよな?」

「……ああ」

「すごいんですね、カレルさん」

 言ってから気づく。

 周りの空気が少し冷たくなっているのを。

「……ああ。危険な任務でも、手伝ってくれる奴がいないからな。タッカやウェインは忙しいし」

 その言葉は、大きな声で言ったわけではないが、なぜかよく響いた。

「あ……」

「だから―――」

 少し間をおいて、

「ライムには、俺の背中を預けられるくらい、強くなってくれると、嬉しい」

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