「―――だから、完全な混浴じゃないんだってば」
カレルは必死に浴場のシステムを説明していた。
脱衣所は別々で、出てからすぐのところは男女でつながっているが、そこからすぐのところには男側、女側にそれぞれドアがあり、そこからはそれぞれ男子禁制、女子禁制となる。そのスペースには洗面台などや浴槽もあり(洗面台はそのスペースにしかない)、混浴が嫌な人も気兼ねせず入れるようになっている。全体のスペースは25人前後しか人のいないこの支部には大きすぎる、25m×25mほどの空間で、かなりゆったりとした気分で入ることができる。実は空間を圧縮しているのは言うまでもない。
「でも……やっぱり……」
説明を聞いても乗り気になれないライムにカレルは続ける。
「ちなみに、タオルを巻いて湯船につかっても大丈夫だし、ってか男女ともに混浴のとこではタオルを巻くことが義務づけられてる。そもそも混浴になったのは入浴中でもメンバーで作戦を練られる、ってのが目的なんだよ」
ライムには、その発案者がムッツリであると思えてならない。
しかし、タオルを巻いていてもいいのなら……とライムは思い始めた。
もともとライムは女性の例にもれず風呂好きで、先ほどの説明のうちからとても気になっていたのだ。
「……そ、それなら……」
「そか。じゃ、浴場(なか)でまた」
多少不安はありながらも、ライムたちは浴場へと入っていった。
「うわぁ……広―い!」
脱衣を終え、しっかりとタオルを巻いてライムは浴場へと入った。
浴槽は非常に広く、混浴スペースだけでも18m×20mくらいの広さがある。今のところ他の人はいないようだ。カレルの姿も今はない。
「とりあえずは入る前に体を洗わないと……」
ライムは体を清めるために女性用のスペースへ入った。
「ふぅ……やっぱいい湯だよな、ここ。それにしても、どっからお湯引いてるんだろ?」
体を清め終わった後、混浴スペースの左奥隅で壁に体を預け、肩まで乳白色のお湯につかりながらカレルはつぶやいた。
ここの位置はカレルのいつもの場所で、ここのあたりの温度がカレルは気に入っていた。他の理由にはこの温度が好きな人が少ないからゆったりできるというのもある。ちなみにこの浴場は場所によって温度が違い、39~47℃ほどの範囲で区切りがされていて、カレルがいるのは47℃のところである。男女それぞれのスペースの浴槽は43℃ほどで調整されているので、氷使いなのに割と寒いのが苦手なカレルは、もっとも温度が高いところに陣取っていた。
「にしても……」
温かい湯船に浸かりながらカレルは考える。
(ライム―――あいつの属性を取り戻すにはどうするかな?)
答えは出ている。
ライムを助けた時に閉じたゲートを再び開けて、中に入ってライムの属性の結晶を見つける。属性の要素ならコアから出たら結晶化することは判明している。
だが、問題はそこではない。
(あのゲートの中を制圧するのは一人じゃきついか……)
ゲートを閉じるということは、こちらからも再び開くまで手出しができないということ。しかもあのゲートは境界がかなり崩れていたところだ。下手をすると世界が境界が壊れ、狭間と同化して、中のロボが世界の狭間に溢れてしまう。
(しかも、ライムを必ず連れて行かないといけないからな……)
属性の結晶は持ち主以外が触ると砕け散り、触った人を飲みこむらしい。しかも、結晶側が持ち主の器に足らないと判断した場合、結晶の属性が暴走し、持ち主が非常に強力なモンスターへと変貌してしまう。そうなった場合、無理やり神機転生(守護者の体を圧縮して神機にする方法)を行わせるしかない。
(とりあえず、できるだけ早めにライムには強くなってもらわないとな)
と、そこまで考えたところで、
「あ、カレルさん……。隣、いいですか?」
ライムがおずおずと尋ねてきた。お湯が乳白色とはいえ、やはり顔が赤い。
「い、いいけど……なぜ?」
ちなみにカレルも、あまり女性が近くで入ることはないので少し緊張していた。
「ここら辺の温度がちょうどよくて……。あっち(女性用)はちょっとぬるくて…」
「ああ、それは俺も思った。俺ら(男)の(性)方(用)もぬるいんだよな」
「そういえばカレルさんって、結構細身なんですね」
「まぁ……ね。多少事情があるんだけど、ちょっと気にしてるかな」
「あ、すみませんっ! なんだか、スラッとしてかっこいいなぁ、と思って…」
「え?」
「「……………」」
しばしの沈黙。
「あ、そうだ。明日は魔法陣の扱い方についてやるから、そのつもりでね」
「わ、分かりました」
それからしばらく談笑した後、湯船から出ていくライムを見送りながらカレルは思う。
―――ま、強くなってほしい理由はそれだけじゃないけどな。
少ししてから、カレルは脱衣所へと向かった。