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「お、やっと生産基地的なのが見えて来たぞ」

 あれからしばらく走っていると、カレルが口を開いたので遠くの方を見てみると、自然環境などに全く配慮のなさそうな超大規模な工場が見えてきた。

「そういえばカレル。どうして生産工場の存在がわかったんですの?」

「だってさ、今まで何千体ロボをぶっ壊してると思う? それでもまだわらわら湧いてきて、しかも一方方向からしか来なかったらリアルタイムで生産されて来てる、って考えるのは当然でしょ…と。『氷弾之雨(ブリザドシャワー)』!」

 カレルは走りながらも的確に魔法を放ち、ロボたちを殲滅していく。ウェインも上空の敵に『帯電濃霧』(スパークリングミスト)を放って撃墜していく。が、

「ウェ、ウェインさん! 敵の本拠地が近くなのに、居場所知らせるようなことして大丈夫なんですか!?」

「あっ…! そ、そうですわ…! 私、なんてことを…!」

 今更悔やんでも後の祭りである。申し訳なさと罪悪感に苛まれていると、カレルは一言。

「たぶん大丈夫だよ」

 …一瞬思考が飛んだ気がする。

「え? 何でですか」

 少し我を失っている間にライムが代わりに尋ねる。

「相手にとって、俺らは尋常じゃないレベルの脅威だ。んで、さっきまで散々ロボを出し続けたのに、俺らが普通にここにいることが分かった。すると相手が考えることは?」

「……自分の本拠地を守るために、戦力を集中させ、少しでも自分に有利な状況を作り出すために施設の中に罠を張り巡らせるとか」

「そういうこと。だからもうロボットは出てこない。もし来るとすれば――」

 カレルが言いかけたその時、ヒュルルルルル……という不吉な音がした。

「ほら来た、遠距離爆撃だ!」

「ええぇぇええぇえ!? どこが大丈夫なんですかっ!?」

「こ、ここは私(わたくし)が…!」

「いや、俺がやるよ。『冷静射撃』(クールスナイプ)!」

 飛んできたのは全長2mほどの弾道ミサイルである。直撃したらただでは済まないだろうが、カレルは左手でハンドガンを抜き、魔法陣を刻んだ銃弾を正確に撃ちこんだ。上空20mほどでミサイルに衝突した弾丸は、着弾面から細かい氷弾をミサイル内部にゼロ距離で打ち込み、爆発させた。

「…これ知ってて大丈夫って言ったわけじゃないですよね?」

「いや、普通はこうなるでしょ」

 ライムがカレルに詰め寄るが、その原因はウェインである。

 などと言っているうちに、また次のミサイルが撃ちだされた。しかも、

「よ、よりによって散弾タイプですって!?」

 相手は一発では撃ち落とされると考え、数を増やす方向にシフトしたようだ。その上、サイズが小さいので非常にタチが悪い。しかも、相当な広域にわたってばら撒かれている。

「大丈夫! 『冷静射撃』、『氷弾之雨』!」

 すると、カレルは慌てず『冷静射撃』の魔法陣に『氷弾之雨』の魔法陣を掛け合わせた。

 銃口を空に向けて、5秒間。

「いけぇ!」

 引き金を引いた。今度は銃弾ではなく、氷の散弾がばら撒かれた。

「わ、私も…! 『水飛沫』(スプラッシュ)!」

 カレルにならって、私も魔法を上空に放った。

 だが、もうすでにカレルの氷弾によって、すべてのミサイルが撃墜されていた。

「ま、まさか…『氷弾之雨』の一発一発を照準合わせて撃ったっていうのですか…!?」

 驚愕する私に、カレルは得意げに一言。

「な、すごいでしょ?」

 今のカレルの状況を見る限り、二年前の事件の傷跡は大分塞げたように感じる。

 一気に基地に向かって走り、どんどん距離を詰めていく。すると、性懲りもなく第三波のミサイルが飛んできた。例によって散弾タイプである。カレルはすぐに銃を構えたが、なぜか銃を降ろして弾倉を取り出した。

「どうしましたカレル? 弾切れですか?」

「いや、そうじゃない。ウェイン、これ全部に『帯電濃霧』の魔法陣を大至急刻んで。当然魔力も込めてね」

「え? はい、了解ですわ」

 5発ほど弾丸を渡されたので、一瞬ですべてに陣を刻んでカレルに返す。

「ついでに、少しでも数を減らしたいから、迎撃しといてくれる?」

「分かりましたわ」

 ウェインは『水飛沫』(スプラッシュ)を放ちながら、ミサイルを観察して気が付く。どういったルールかは知らないが、すべてのミサイルが不自然な軌道を描きながらこっちに向かって飛んでくるのだ。

「これは確かに厳しいですわね…」

「うん。残りの魔力も多くはないから、節約しないと。……よし」

 弾倉に弾丸を込め、銃に戻し終わったカレルは、仲間の守護者たちの魔法攻撃によって大分数が減ったミサイル群に対し、空を駆け回るミサイルをできるだけ多く巻き込める位置に『帯電濃霧』の弾丸を撃ち込んでいく。

 そして、『帯電濃霧』が発動したと同時に、先ほどと同じように氷弾を放った。システムが停止し、動きの不規則性がなくなった瞬間に放たれた氷弾はすべてのミサイルを貫き、上空に大量の花火が咲かせるのだった。

「ふう、何とかなったね。じゃ、急ごうか」

 改めて全力で基地に向かって走り出す。目的地はもう目と鼻の先だ。

「私…今回出番なかったですね…」

「そういうこともあるよ」

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