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「分かりましたか、カレルさんの強さが?」

 カレルがさっさと帰還した後で、ウェインは震えているライムに尋ねた。

「…な、何なんですか、あの圧倒的すぎる強さは……!? 私なんか、本当に足手まといじゃないですか……! 邪魔にしかなってないじゃないですか…!」

 あんな大規模な火力を操るカレルが、細かい配慮が欠かせない集団戦闘が得意とは思えない。少なくとも好きではないはずだ。

「そうね。確かにカレルは一人の方が絶対に強い。周りへの配慮なんて、カレルにとっては足枷にしかなりませんわ。けれど――」

 そして、一呼吸。

 

「カレルは、そんな自分を嫌っていましたのよ」

 

「……え?」

 ライムが気の抜けたような声で聞き返す。

「仲間がいたら力を出し切れない。しかも、カレルは体質的に、敵味方を問わず、強化も妨害も問わず、自分に対する能力変化を受け付けないのです。この体質は、集団戦闘だと仲間からの反感を買いますが、一人ならば有利にしか働きません。そんな、一人で戦うためにあるような自分の力を、カレルは嫌っていたのですわ。一人でしか戦闘ができない、ということは、大切な人を守ることもできない、ということなのですから」

 そして、ライムの方を向き、

 

「ライムさん。確かにあなたはまだ足手まといかもしれませんが、邪魔にしかなっていない、というのは違いますわ。あなたが来てくれたおかげで、カレルはようやく変わるきっかけが掴めたのですから」

 

 ライムの目から涙が零れた。

泣きじゃくるライムを抱きしめ、ウェインはライムの頭を撫でていた。

 

 

 

 任務を終えたカレルは、雌火竜希少種の死体をハンタ村のハンターたちを呼んで回収してもらい(雄火竜希少種と雷獅子は砕け散っている)、第7支部に戻って事後報告を済ませた後、自分の部屋に戻ってきていた。今の時刻は午後九時くらい。ウェインの援護からすでに4時間は経過している。

 カレルはベットに腰を下ろし、一息ついて、覚悟を決める。

 左手を胸に当て、自分にかけていた魔法陣を、

 

 切る。

 

「うぐあアアああぁっ!」

 瞬間、カレルの背中から、強烈な痛覚信号が全身を駆け巡った。

 カレルが自分にかけていた魔法陣の名は、『痛覚銀行(オーバーペイン)』

 発動中は痛覚を感じなくなるが、効果が切れた瞬間、3割増しで、しかも短時間に凝縮されて返ってくるという悪趣味な魔法陣だ。本来は拷問用に用いられるこの魔法陣を、カレルは強がりのためだけに自身に使っていた。

「がぁああっ!」

 こんなもの、カレルだってそうそう使えるものではない。強く、長引く痛みは守護者の精神を削っていくのだ。

「ぐっ……っがアッ!」

 それでも、カレルにだってプライドはある。

 痛みにのた打ち回る姿など、何を間違っても彼女には見せられない。

 だからこそ、完全防音で、訪問があっても居留守を決め込める自分の部屋に着くまで、凄まじい速さで増えていく借金を抱え込んでいたのだ。

「ぎぃ…あッ!」

 しかし、カレルは焦りで忘れていた。

 この部屋の唯一の合鍵を持ち、カレルが珍しく意地を張った、一人の少女を。

 

「あの……カレル…さん…?」

 

 突然自動ドアが開き、ライムが部屋へと入ってきた。

 当然、ドアが開けば防音機能は効果を失う。

「!? っ…! ライ…ム、早く、ドアを…閉めて…っうっ!」

「え!? あ、は、ハイ!」

 カレルの切羽詰まった声に、ライムは慌てて応じ、ベットの上で痛みに震えているカレルに近づいてきた。

「カレルさんっ、大丈夫ですか!」

「ふ、ふっ…。水ブレスの…だ、ダメージが…っ! ちょっと…遅れて、きたみたいだ……! でも、大丈夫…そんなにひどくも、ない、から」

 ライムが来たことによって、カレルの口調は落ち着いた、ように見えるが、体中を走り回る激痛はいまだ衰えない。

 しかし、それでも、カレルは意地を張りつづける。

 目の前の少女に、不安を与えないように。

 しかし、

 

「カレルさん。嘘をつくのはやめてください」

 

 少女の言葉には、心配しないで、という意図も入っていたのだろう。

「カレルさんが任務に行ったとき、カレルさんは右手を一回も使ってなかったじゃないですか。すごく痛むのを我慢して、いま苦しんでるんでしょう?」

 少しとがった言葉は、逆にカレルに対しての心配の裏返しだ。

「大怪我しても顔色一つ変えないなんて、不気味なだけです。まだ私は頼りないですが、頑張りますから」

 そういって、ライムはカレルの背中へと触れた。

「っ!? ………?」

 傷口はすでに塞がっているので、新たな痛みは感じない。

 それどころか、触れられているだけで、痛みが少し和らいでいった。

「ふう……ライム…。もうしばらく、このままで、いてくれる? 少し、楽になった…」

「もちろんですよ…」

 カレルは思う。

 ――1人だったらちょっとやばかったかも。

 予想外、しかも望んでいなかったとはいえ、カレルの精神へのダメージは最小限で済んだ。正直思うが、やはり痛みはためるべきじゃないな。うん。

 ――これで最後って保証はできないけど。

 

 カレルの痛みが治まるまでの一時間。ライムの右手はカレルの背中を温め続けた。

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