「ま…ずいっ! 数が多すぎるよ!」
ゲートを開けてから20分ほどが経過していたが、大量のロボットたちが絶え間なく湧き出てくるせいで、全くゲートに近づけない。
ただでさえ、飛び交うビーム砲をかわしながら戦っているのに、数で圧殺されればアウトだ。
「こうなったら…! 『剣の輪舞曲』(ブレードロンド)!」
ライムはカレルに教わった基本の魔法を展開する。ライムの前後左右に1メートルほどの剣が現れ、そこを軸に高速回転する。切れ味が悪いから少ししか維持できないし、消耗も激しい。だが、行くなら今しかない!
近づいた敵を弾き飛ばしながら、ライムは一気にゲートへと飛び込んだ。
「チッ…! やっぱりゲートが開いてる!」
普段はしないように気を付けている舌打ちだが、今はそんなことを気にしていられない。なぜなら例のロボットが大量にいるからだ。
「一瞬で蹴散らす! 『氷弾之雨』!」
以前は人間と同じくらいの氷弾という対巨獣用の弾だったが、今は太さをもっとコンパクトにし、貫通力と前以上の乱射で敵集団を叩き潰すという対小型用の弾丸である。しかも、体内の水分を核として形成するよう改良したので、コストも相当削減できている。
新型の氷柱の雨は、黒の領域を洗い流していく。
先ほどの掃射で今出ている奴はすべて沈めたが、ゲートから次々と後続が出てくる。
(これは、俺が中に入って殲滅するか!? …いや、出てくる奴がいたら面倒なことになるな…! 魔法陣トラップも仕掛ける暇がない! タッカ、ウェイン…。早く来てくれ…!)
「ちょ…っ!?」
『剣の円舞』を展開させながらゲートに飛び込んだライムは、いきなり自由落下した。それはゲートの下に落とし穴があったわけではなく、単純にゲートが空中にあったためだ。だが、陸地だと思って飛び込んでしまったライムの体は思いっきりバランスを崩してしまった。
そして、当然周囲にはゲートに入ろうとしていた一つ目ロボが大量に飛行している。その上、地面にも当然のようにライムを狙ってビーム砲を構えるロボットたちが敷き詰められていた。
「間に合って…! 『盾の円舞曲(シールドワルツ)』!」
ロボたちのビーム砲が放たれる直前に、ギリギリ魔法が発動する。ライムの体の周りをたくさんの盾が隙間なく覆い隠してビーム砲を防いだ。盾の表面で大規模な爆発が何度か起こったが、破られることはない。その直後、ライムを守っていた盾は、ライムを中心に渦を描くように全方位にはじけ飛び、ロボットたちに突き刺さっていく。ビームで相当削られはしたが、安全に着地できるスペースは作れたようだ。
着地したら、第二波が来ないうちに撹乱しながら切り進む。
「第7支部の諸君! これより三日前に説明した侵略作戦を決行する! 予定より一日早いが、準備はできているな!?」
『当然ですよ!』
『ライムのために頑張ります!』
「よし! 第7支部の防備は私一人で大丈夫だ! ここのことは気にせず、先に行ったタッカたちを全力で援護するんだ!」
『『『了解です!!』』』
「あの~。私たちも行きますか~。」
「いや、ティアとティオはここで―」
「ティオはもう行っちゃいましたが~?」
「…ティア。少々手伝ってくれるか?」
「支部にも飛んで来てるロボットの殲滅ですね~。了解です~」
「悪りぃカレル! 遅くなった!」
カレルが相変わらずゲートの前で足止めを食らっていた所に、タッカとウェインが合流してきた。
「気にすんな! それより、ここのゲートから湧き出るロボの相手を任せていいかな!? ライムが中にいるんだ!」
「そうですか…。お行きなさい、カレル! 死なせたら承知しませんわよ!」
「こっちは任せな! …カレル、飛べ!」
言われた瞬間2mほど垂直に飛ぶと、かまいたちがロボをなぎ倒していった。タッカは今、魔法が使えない代わりに、圧倒的な身体能力と風を視る才能から真空波を放てるようになっていた。魔力を使わないので、かなり使い勝手がいい技である。
真空波によって遮るものがいなくなったため、カレルは一瞬でゲートの前まで走りこむ。
(待ち伏せもあり得るかな?)
そんなことを考えてゲートに飛び込んだ。
ライムが大量のロボを相手に立ち回っていると、不意にすべてのロボがゲートの方に向き直り、ビーム砲を構えた。
「いきなり何…? でも、チャンスかも!」
こちらに全く反応がない間にどんどん両断していくが、3秒後にその理由がわかった。
ゲートから、カレルが出てきたのだ。
そして、すでにビーム砲の照準は合わせられている。
「カレルさん! 危ないッ!」
私が叫ぶと同時に一斉にビーム砲が発射された。
空中を飛んでいるロボも撃っているのだ。隙間などあろうはずもない。
全方位から発射されたビーム砲はまっすぐカレルさんに向かって収束し―数本不自然に屈折したが―大爆発が起きた。
「う…そ…」
とてもじゃないが、いくらカレルさんでもあれを躱せたとは思えない。
そして、あれを耐えきれるとも思えない。
とすると、もうカレルさんは――
そんなことを考えていた彼女の足は止まってしまっていた。
ライムの周りには侵入者の迎撃を終えたロボたちがビーム砲を向けている。
(し…まっ!?)
まずいと思った時にはもう手遅れである。『盾の円舞曲』はもう撃ち尽くしてしまっている。
その時、彼女の口をついて出たのは、一人の守護者の名前。
「――カレルさんっ!!」
応えてくれるとは思っていない。ただ、口をついて出ただけの声。
「呼んだ?」
それなのに、なんて爽やかに応えてくれるんだろう。
一瞬で半径50mの敵を殲滅し、ダイヤモンドダストが舞い散る中で、私の指導者(センセイ)は、極上の笑顔を浮かべて、一言。
「無事でよかったよ。今度は怪我してないよね」
不覚にも、少し胸がドキッとした。