Episode2 初任務
「う……ん……」
窓から差し込む日光の温もりを感じながら、目の前の少年――カレル・R・イメシスレイは気持ちよさそうに寝息を立てていた。
――7時から鳴っているアラームが1時間はなり続けているというのに…。
「起きてよ、カレルさん」
私はカレルさんの体を揺するが、カレルさんは「う~ん」とかいうばかりで起きる気配がない。
――意外と寝坊助さんなんですね。
私は少し意外に思いながらも、胸が温かくなるのを感じた。
正直なところこの微笑ましい光景を壊したくはないが、何せ、もう会議は始まっているのだ。
「ホントに、起きてよカレルさんっ」
さっきよりも大きく体を揺するが、起きる気配はない。
――こうなったら……。
私は手のひらに小さな氷を作りだし、カレルの首筋に――
ピトッ
当てた。
瞬間。
「ひゃうんっ!?」
なぜか自分の首筋に突然の刺激を受け、私は目を開けた。すると――
「やっと起きたかライム。お前も寝坊助なんだな」
小さな氷を手に、窓から差し込む日光を反射してキラキラ輝くカレルさんがいた。サラサラした髪がとても魅力的だと思う。けれど、カレルは言葉を続ける。
「カレル……さん……?」
「ライム。……遅刻だ。早く着替えて」
――こちらに、針が8時15分を指している時計を差し出しながら。
「………え?」
「外で待ってるから、着替えたらすぐ来て。――すぐだよ?」
私が今の状況を理解したのは、カレルさんが私の部屋を出てからだった。
綺麗な廊下を走りながら、ライムはやはり隣を走る少年に聞く、
「なんでもっと早く起こしてくれなかったんですか!?」
もともとライムは、自分の寝坊を他人のせいにするほどダメ人間でもない。それが自分の指導者(センセイ)ならばなおさらだ。
それでも、ライムは思わずにはいられない。
――起こしてくれるなら、もっと早くてもよかったじゃないですか……。
八つ当たりなのはわかっているが、納得のいく理由がほしかった。
カレルの返答(こたえ)、
それは、
「俺も寝坊したんだよ!」
実に納得のいく理由だった。
バン!
「「遅れてすみません!」」
8時20分。二人はドアを開けて会議場に到着した。
一瞬の沈黙。
からの爆笑。
『遅いぞカレル~~!』
『寝坊なんてかわいいなライムちゃん!』
『ちょうど退屈してたんだよ!』
笑われながら二人は自分の席に着くと、軽くひきつったように見えなくもない笑顔のエルジラがこちらを見つめて(睨んで?)いた。
「……たぶんやるだろうなとは思っていたんだけどね。ここまで見事に寝坊されると怒る気も失せるよ。働きでしっかり挽回してくれたまえ」
「「了解です」」
二人の返答にエルジラはため息交じりに微笑み、会議の再開を告げた。
「とりあえず、ここまでは遊撃班のノルマが決まったところだ。タッカを中心とした三つの部隊には、この一週間で一班二つは任務をこなしてもらう」
「「はい!」」
と、タッカをはじめ10人ほどが返事を返す。
「んで、俺は?」
自分の名前が出なかったので(カレルは基本1人(ソロ)で任務を受けている)、確認のためエルジラに声をかける。
「そうだね、君にはウェインのヘルプに行ってもらうよ」
「ウェインの? 珍しいな……」
ウェイン、という名前を聞いて、ライムは思い出す。確かこの支部の中でもトップクラスの実力の持ち主のはずだ。
「うん、彼女いわく、『相性が悪すぎてどうにもならない』だそうだ。たぶんあのあたりだと、魚龍にでも遭遇したのかもしれないね」
「魚龍か……その近くで他の反応は?」
「確か巨大蜂が大量発生してたはずだ。あと、原始龍が出没する可能性がある。用心するに越したことはないだろう」
ここまで聞いて、カレルは思う。
めんどくさそうだな。
ここからウェインのところまでは少し遠いし、正直、魚龍はともかく、他にもいるとなると厄介だ。
ここまでのことを踏まえて、結論が一つ。
「エルジラ。ライムを一緒に連れて行っていいよね?」
「えっ!?」
「構わないよ。君が一緒なら、大丈夫だろう」
「ってわけだから。今から準備をするよ」
「……分かりました」
若干強引だが、成長には実戦が一番だ。ライムなら下地もあるし大丈夫だろう。
「エルジラ、なんか連絡とかある? なかったら退室していいかな?」
「構わないよ。何かあったらすぐに連絡が行くから、いつでも準備はしておくように」
「了解。んじゃ、また後でな。じゃ、行くよライム」
「はい」
こういって、第7支部の誰より遅く入室した二人は、誰より早く退室していた。