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「よし、これで二体目! 後一体だ!」

 カレルは、蜂の数が減ってきたことでできたスペースを使い、移動しながらさまざまな角度から弾丸を連射し、二体目の女王蜂を蜂の巣にしたところである。

 ラスト一匹の女王蜂は上空で羽ばたいている。護衛の数は約60匹。彼らは数が減ってきたからか、統制だった動きをしてくるようになった。

「じゃあ、そろそろ使い時かな」

 自分に宣言し、端末から直径2センチの小さな魔法陣を呼び出し、銃口に張り付ける。

 その魔法陣の名は、『冷静射撃』(クールスナイプ)

 手振れを大幅に軽減し、弾丸の初速を上昇させることで、より正確な狙撃を可能とする。しかし、これを使っている間は連射機能が落ちるので、先ほどのような乱戦状態では使いにくいという短所もある。

 標的の周りには蜂が主を守るように飛んでいるが、今は問題とならない。

 カレルは、わずかな隙間を見つけ、引き金を引いた。

 が、

「あれ、弾切れ!?」

 弾倉は空となっており、弾丸は出なかった。

 仕方がないので弾倉を交換するが、その間にはその隙間はなくなっていた。

(今の状態で新たに隙間は出来はしない……な。なら!)

 銃をホルスターに収め『追上氷壁』を発動、女王蜂の元へ跳躍する。空いた左手には『氷弾之雨』の魔法陣。

 跳躍しながら放たれる氷弾の雨は、蜂達を撃ち落としていくが、本命の女王蜂は傷一つ付いていない。

 しかし、カレルの攻撃はまだ終わらない。

「――よっ…と!」

 左手を振ると金色の直剣…崩氷剣が現れる。そのまま体を回転させ、左右の剣で斬撃を放つ。護衛の蜂達は体組織を崩壊させたり、凍りついたりして落下していった。そして、護衛を剥がされた女王蜂を両断しようとしたところで、女王蜂は尻尾から強酸を噴出してきた。

「――しまっ…!」

 とっさに左手から氷壁の盾を形成して防ぐが、勢いが強かったため押し返され、カレルは地面へと送り返された。

「……やってくれるね」

 と、カレルが起き上がったとき、

「カレルさん! 大丈夫ですか!?」

 ライムがこちらへと向かってきた。

「ああ、大丈夫だよ…ウェインは?」

「周りに蜂がいなくなったので、魚龍の方に行きました。それで私はこっちに」

「そうか。じゃ…どうしようか…な」

 カレルは思考を巡らせる。正直、戦闘をこれ以上長引かせるのは得策ではない。かといって、単純に攻めれば反撃を受けるのは目に見えている。相手は飛んでいるのだ。撃ち落とす、というのがベストだろう。ならば……。

「ちょっと待ってねライム。弾丸に魔法陣を刻むから」

 カレルは弾倉を取り出し、一発だけ弾を抜いた。その隙間に魔力を結晶化させて弾丸を形成、さらに、即興で作った魔法陣を張り付け、銃へと戻した。

「ライム、今からあいつらを地面に落とす」

「で、私が止めを刺すんですか?」

 少しの期待とともにライムは尋ねる。

「そうだね。できるなら頼むよ」

 カレルの言葉で覚悟を決めた。

 カレルは銃を構え、狙いを定める。

 引き金が引かれ、魔法陣付の弾丸がはなたれ、

 女王蜂に――

 当たらなかった。

 驚異的な動体視力を持つ守護者だからこそ、はっきりとわかる失敗。その弾丸は無情にも女王蜂の数センチ横を通り――

 ――そこで、魔法陣が起動した。

 そう。当てなくてもよいのだ。カレルが放った魔法陣は、広範囲の気温をマイナス20度まで下げる、という術式だ。これは銃口から20m進んだら発動する設定となっていた。なので、カレルは女王蜂を狙わず、周りの蜂をできるだけ多く巻き込める位置に放っただけのことである。

 魔法陣の効果で下がった気温は、蜂たちの羽の表面に霜を降らせて機能を奪う。それにより、飛行力を失った蜂達は地面へ落下していく。そこには、『アウレリア』を携えたライムが待ち構えていた。

「――ハッ!」

 短い気合とともに、女王蜂を一閃。

 これで後は動けない蜂に止めを刺すだけ。と、ライムが後ろを振り返ると、

 そこには、まさに今突き出された蜂の針があった。

「あ…ぐっ!?」

 ドスリ、という音とともに針は服を突き破り、腹部に突き刺さる。貫通こそしなかったものの、注ぎこまれる麻痺毒は即座に体を蝕む毒素へと変化され、ライムの体を駆け回っていく。意識がぶれ、手の中の『アウレリア』が形を保てずに霧散していく。カレルはこちらに走って来ているが、そのわずかな間すら永遠のように感じる。苦しさから酸素を求め、だらしなく口が開いてしまった。

 そこに、カレルが投げた一つのカプセルが投げ込まれた。中身は蜂の毒に対する、即効性の解毒薬。

 その速さは確かなもので、走り寄ってきたカレルが蜂の残党を一瞬で薙ぎ払う頃には、すでに体内の毒素は中和されていた。

「ライム…ゴメン。また守れなかったね…」

「い、いえ。おなかの傷は痛いですけど、大丈夫です」

「そっか、良かった。痛い思いさせてゴメンな」

「いえ、気にしないで下さ――」

 ――二人は甘かった。

 視界の中に敵がいなくとも、まだ戦闘は続いているのだ。

 

 超遠距離から、上から下に薙ぎ払うように放たれた水ブレスが、カレルの背中に直撃した。

 

「―っぐぅっ!?」

 カレルの体は回転しながら上空に吹き飛ばされた。

 

 そして、甘さのツケは、まだ止まらない。

 

「グォォォォオオオッッ!」

「―カレルさ――きゃあっ!?」

 原始龍。発達した四肢による凄まじい突進をはじめとする運動能力でハンターたちを追い詰め、鋭い爪や牙で止めを刺す。不意打ちで出会ったならば、まずただではすまない。その龍が、

 崖上から飛び降り、一瞬でライムを押し倒し、前足で少女の両手を封じた。

 原始龍が口を開くと、口から垂れた涎がライムの頬に落ちた。口の中にはノコギリなどよりもはるかに鋭く、凶悪な歯がずらりと並んでいる。

「い、イヤあああぁぁっ!」

 今は誰も助けに動ける状況ではない。カレルはまだ宙を舞っているし、ウェインはここから遠すぎる。つまり開かれた原始龍の口の中に、ライムの頭部が収まるのを防げるのは自分だけ。

 けれど、その自分も両腕が押さえつけられ、身動きが取れない。

(イヤ、イヤっ! 死にたくないっ!)

 ライムは暴れるが、両腕を押さえつけている前足は動かない。

 原始龍は開いた口を、ライムの顔に向けて勢いよく突き出す。

 あまりの恐怖にライムは思わず目を瞑った。

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