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「それにしても、カレルさんって、本当に人を守りながら戦う力量があるんですかね?」

 今回の戦場への道を走りながら、ライムはウェインに尋ねる。

「…どうしてそんなことを?」

「いえ、カレルさんと一緒でも、私は無傷で戻って来れなかったな~、と思って…」

「……そう、ですわね。ちなみに、ですけれど、カレルとタッカさんと私の中で、一番人を守りながら戦うのが苦手なのはカレルです」

「そう…なんですか?」

 少し意外な言葉に、ライムは驚く。

「ええ、タッカさんは諸事情あって魔法が使えませんが、それを差し引いても、やはりカレルですね。カレルもいろいろあって、魔法を使うのが苦手になっていますからね」

「え? でも、カレルさんは魔法を使ってましたよ? それも大規模で…」

「カレルが使っていた魔法は、すべて魔法陣を使っていたでしょう?」

「そ、そういえば…」

「魔法というのは、明確に、ブレずにイメージできれば、魔法陣なんて使わなくても一瞬で発動できるものなのですよ。つまり、魔法陣を使わない方が柔軟な使い方ができるのです。だから、カレルは人を守りながら…いえ、そもそも、多人数で戦うのが苦手なのです。仲間に当たらないように…とか、攻撃を防げるように…とかの微調整が苦手なのですよ」

「で、でも、カレルさんの『追上氷壁』(アッパーウォール)とかは――」

「カレルなりの工夫で、魔法陣を不完全なまま刻み込み、状況に応じて、形、大きさ、位置、質、高さなどを調整しているのでしょう。カレルはイメージ魔法が使えないなりに、魔法陣を極めた…いえ、極めようとしているのです。だからこそ、カレルは一人で戦う方が得意なのです。…ほら、見えてきましたわよ」

 そこは、ちょっとした森の中にできた開けた空間で、カレルが二頭の、金色と銀色の龍と相対していた。

 二頭と睨み合うカレルのそばに、不意に稲妻が落ちる。

 カレルは危なげなく雷をかわしたが、稲妻の着弾点を見てチッと舌打ちをした。そこには金色の毛皮を持つ雷獅子が、カレルを威嚇していた。

「こ、この三体を同時に相手に…!? カレルさん一人じゃ――!」

「まあ、心配なのは分かりますが、見ていなさいな」

 一瞬後、戦闘は始まった。

 戦闘の火蓋を切ったのは、雌火竜の火炎ブレスだ。真正面から放たれたブレスを、カレルは『追上氷壁』で防ぐ。

その間に背後に迫った雄火竜の突進を、左手の崩氷剣で受けとめる。当然、カレルの体は雄火竜の突進の勢いで浮くが、それは一瞬のことだ。

なぜなら、さっきまでカレルがいた場所に、雷獅子の放った落雷が落ちて来たからだ。雷獅子の強烈な雷を受けた雄火竜は地面に倒れ伏す。どうやら少し麻痺したらしい。 

そして、吹っ飛ばされた勢いのまま、カレルは雌火竜に狙いを定める。勢いを乗せて魔力を込めた連凍剣を突き出し、頭の甲殻を氷結させながら頭に剣が突き刺さる。そのままカレルは体勢を整え、雌火竜の頭を踏みつけると同時に、雌火竜の頭から『追上氷壁』(アッパーウォール)を発動。大きく空へと跳躍する。

上空20メートルまで上昇したカレルは、見慣れた、しかしいつもよりもかなり直径が大きい『氷弾之雨』(ブリザドシャワー)を左手に展開。そこから放たれたのは、いつもの数十倍の量の氷弾である。麻痺している雄火竜、頭を割られた雌火竜、カレルを見失って辺りを見回している雷獅子を、ふざけた量の氷弾が襲い、みるみるその体力を削っていく。

ウェインたちの方にもかなりの量が来たが、ウェインの水の盾で軌道をずらして事なきを得た。

この時点で雄火竜と雌火竜はすでに力尽きた。瀕死の雷獅子が空を見上げた時、カレルの左手には、ライムが見たことのない魔法陣があった。そこから放たれたのは、

 

 直径3メートルクラスの銀色のレーザー。

 

『獄冷極砲(ブリザガカノン)』と呼ばれるレーザーに雷獅子が触れた瞬間、体中の水分が一瞬で凍りつき、さらに一瞬後には粉微塵に砕け散った。若干掠っただけの雄火竜は砕け散りこそしなかったが、全身が凍りついてしまっていた。そのレーザーが撃ち終わった後、地面には相当な深さのクレーターが刻まれていた。

 

 圧倒的。

 

 それが、無傷で戦闘を終わらせたカレルに対する唯一の言葉だった。

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