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「ってわけで、今日は改めて、魔法についての講義をするよ」

 朝食(あとバカ処理)を済ませた二人は、会議室に来ていた。ライムは机に座り、カレルはホワイトボードの前に立っている。カレルが先生、ライムが生徒、という構図だ。

 ちなみに、周囲には数人の守護者がライムと同じように座っている。基礎を確認したい守護者たちが便乗したものだ。

「まず、魔法は大きく二つの種類に分けられる。『イメージ魔法』と『陣魔法』なんだけど、違いは分かるよね?」

「えっと、『陣魔法』は魔法陣を使って、『イメージ魔法』は使わない、ってことですか?」

 若干教師モードに突入したカレルの質問に答えるライム。

……ちなみに、カレルは他の守護者に対して発言を禁止している。今回はライムのための講義だからね~、と言われて断れる者がいるだろうか?

「それもあるんだけど…。じゃ、先に魔法の捉え方から説明するよ。魔法っていうのは、料理みたいなイメージなんだよ」

「と、いいますと?」

「まず、出来上がる料理が魔法、材料が属性に対応すると考える。すると当然、自分の持っている材料は限られてるから、作れる料理も限られてくるよね?」

 言いながらカレルはホワイトボードに書き込んでいく。若干読みにくいが、十分読める。

「この時に、あらかじめ作ったレシピを見て作るか、完成品のイメージを考えて、それに近づけるように調理するか……、分かりやすく言うと、スタートから不確定なゴールに向かっていくか、確定したゴールからスタートに戻るか、ってことかな?」

「じゃあ、私の『アウレリア』は、レシピを使った方なんですね?」

「そうそう。その時は、ライムの完成品のイメージを実現させる手順を記録して、魔力を通せば手順通りに剣ができるレシピを作った、ってことになるね」

「なるほどです」

 ちなみに、ライムの隣に座っている男の守護者は寝息を立てている。まぁここら辺は普通の守護者なら退屈ダカラネとカレルは苦笑いして話を続ける。

「つまり、『イメージ魔法』と『陣魔法』の違いは、『レシピを使うか否か』ってことになるんだよ。ま、陣使うか使わないかだけどね」

「それで、どんな特徴があるんですか?」

「うん、『イメージ魔法』の方は、魔法陣を展開するタイムロスがないこと、状況によって臨機応変に対応できること、下準備が要らないこととか…あと、自分の有効魔力圏内で自由に使えるのも、この『イメージ魔法』かな」

「あ、あの…有効魔力圏内ってなんですか?」

「それは、自分の体から2~3メートルの距離で、魔力を自由に使える範囲なんだよ。他の守護者と被ったときは、格上の方が優先されるんだけどね」

「じゃ、近くに寄ってきた相手を内側から爆砕するとかも……?」

 強い守護者ならできるかもね、と言って、カレルは話を続ける。

「んで、次に短所。イメージがうまく固定できないと、暴発する。あと、自分の体からあまりに離れたところでは魔法を始められない。当たったら爆発する、とかはできるけど」

「そういえば、カレルさんは『イメージ魔法』が使えないんでしたよね?」

「それ、誰から聞いたの…?」

 少しカレルの表情が曇ったが、特に気にした様子もなく、

「まぁ、いいけど。俺は1年半くらい前から『イメージ魔法』が使えなくなった。なんていうか、雑音(ノイズ)が入ってイメージを固められない、って感じかな」

「原因は分かってるんですか?」

 カレルは首を振って、

「たぶん『あれ』…かな?」

「…? 『あれ』ってなんですか?」

 ライムの問いに、カレルは「口が滑った…」とつぶやき、少し影の入った顔で言った。

「…知らない方がいいよ」

「…そう、ですか…」

 少し気まずい空気になったが、まだ授業は途中である。

「じゃ、次は『陣魔法』についてだね。これのメリットは、複雑な魔法の発動を確実に行えること、独自に記号を組み合わせて多彩な魔法を作れること、物品に張り付けて魔法の力を宿したり、応用としてトラップみたいな使い方もできる。でも、最大のメリットは、『魔晶宝石』を使うことで、自分だけじゃ使えない魔法も使えるってことかな」

「前カレルさんが使ってた治癒魔法とかですね?」

「そうそう。もちろん、それでもできないものはあるけどね。やっぱり得手不得手はあるからさ」

「なるほど…。それで、短所の方はどうなんですか?」

「うん。短所としては魔法陣の展開に時間がかかる、下準備がメンドイ、『魔晶宝石』の補充が必要…とか、それくらいかな。ま、物に刻んであるタイプならほとんどノータイムだけどね」

「私の『アウレリア』とか――」

「俺の『追上氷壁』とかね」

 二人で頷きあって確認終了。ひとまず基礎の説明は終了である。

「じゃ、次は属性かな?」

 と、カレルはホワイトボードを全て消した。

「属性っていうのは、その人の使える魔法を決めるとともに、守護者としてのスタイルにも影響するんだよ。まず、大きなくくりだと、『有属性』と『無属性』だね」

「無属性っていうのは、属性がない人ってことですか?」

「そうじゃなくて、属性が『無属性』の守護者のことなんだよ。ちょっと説明するから待っててね」

 カレルはホワイトボードに『有属性』と『無属性』と書き、それぞれに注釈を加えていく。

「『有属性』についてだけど、これは火、水、氷、土、木、風、雷って感じの力を扱えるかどうか。『無属性』は、『魔力』っていう物質を操ることに特化してる、って考えれば分かりやすいと思うよ」

「うん、分かりました。それで、スタイルの方はどう変わるんですか?」

「そうだね……、『有属性』だと、それぞれの属性に対応した能力が特化する。そして、大きく劣ってしまうものもある。あと、得意な体術の種類もあるんだよ」

「カレルさんは何が得意なんですか?」

「一応、投げ技は得意だよ。あんまり使う機会はないけど」

「へぇ~。じゃ、『無属性』の方は、全体的に伸びやすいってことになるんですか?」

「うん、体術とか身体能力とかは基本的にそうなるね。総じてみんなタフになるから、そこは羨ましいんだよね」

「氷属性は耐久力が下がるんですか?」

 少し心配になるライムだが、カレルは軽く笑って、

「ま、大丈夫だよ。ちょっと怪我がひどくなるってだけだし。俺は速いし強いからそうそう傷負わないし」

「………」

 ライムの脳裏に二つの前例が思い浮かぶ。確か一週間で二回は大怪我してたような…ってか今もしてるし。

「…一週間に二回しか直撃なしはすごいですけど…。どっちもかなりの大怪我じゃないですか!?」

「いや、ここ二ヶ月はほとんど無傷だったんだよ? …ま、それはいいや。話は逸れたけど、『無属性』のメリットとデメリットについて」

 今度はホワイトボードの右側に『無属性』と書き、さらに次のようなことを書き足した。

 メリット

・身体機能が総じて高い。

・魔法の燃費がいいので持久力もある。

・不得手になるものがないので、スタイルを多彩化できる。

 デメリット

・魔法のバリエーションが狭い。

・『魔晶宝石』使用の制限が多い。

「基本、『無属性』は魔法のバリエーションが少ない以外はデメリットはないと思っていいよ。むしろこっちの方が守護者向きかも」

「そういえば、エルジラさんは何属性なんですか?」

 ふと、思い出したようにライムが聞いた。

「あ~…じゃ、『特異点』についても言っとくか。簡単に言うと、今言った『有属性』と『無属性』どちらにも分類できない属性を持つ奴のこと。エルジラは属性がそもそも『自然』で『有属性』の全部の属性を扱えるし、魔力を扱える範囲が異常だ。俺も広い方だけど、エルジラは俺の十倍は広い」

「じ、十倍!? カレルさんが3mくらいだとすると、30mですか!?」

「いや、俺はだいたい5mくらいかな」

「50m…!?」

 戦慄するライムにカレルは少々呆れたように言う。

「あいつ一人で、この支部の守りはほぼ完璧だと思うよ。…面倒事も多そうだけど。ま、講義はこれくらいでいいよね」

「は、はい。ありがとうございました」

 その後二人は手早く片づけをして部屋を出た。

「そういえばカレルさん。寝てた他の先輩たちはほったらかしでいいんですか?」

「ほっとけ」

 若干むくれたような顔でカレルは答えた。

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