戦闘となった場所は海岸沿いに近い林で、木々はやや少なめではあるが、確実に視界を悪くしていた。
正直なところ、かなり厄介な戦闘である。
蜂に何度も刺されると強烈な毒に犯される上、かなりの痛みを伴う。さらに魚龍の水ブレスはかなりの射程があり、乱戦の中だと間違って食らう可能性は跳ね上がる。
その上原始龍の奇襲にも気を付けなければならないのだ。
もしゲームだったら、難易度はホントに鬼レベルだろう。それこそクリアできたら神というレベルで。
その戦場に、まずはカレルが踏み込んだ。
「いくぞっ!」
叫びながら右手に連凍剣を呼び出し、左手には銃を持つ。そのまま嵐のように飛び回る蜂に対し、近付きながらピンポイントの蜂を狙って引き金を連続で引き、嵐にくぼみを作っていく。そして、くぼみから一気に内部に踏み込み、前進しながら体を回転させて連凍剣を横一文字に振振りぬいた。その間にも蜂は滑空攻撃を仕掛けてくるが、カレルは回転しながら恐るべき動体視力を駆使して銃で迎撃していく。
ここで、嵐の中に一点の穴ができた。
この瞬間を逃さず、カレルは足裏から『追上氷壁』を使って宙に舞いあがる。
邪魔なものはぶった切り、撃ちぬき、目標へと接近する。
高度20mほどで滞空している女王蜂へと。
「うわ、カレルさん速い! もう一体目を切りましたよ!」
蜂の大群の中、ウェインの背中を守るライムは感嘆していた。
「ええ、カレルは強いですからね。私たちも数を減らして協力しましょう。…『水しぶき(スプラッシュ)』」
ウェインが両手を頭上で交差させると、一瞬で虚空に頭より少し大きい程度の水球が生まれる。
「やっ」
両手を一度下げ、前に向かって突き出す。すると、水球から水滴が小さな、しかし鋭い矢となって蜂の大群に飛んでゆく。
ズドドドドドッ! と水の矢は手当たり次第に蜂に突き刺さり、一気に殲滅していく。瞬く間に地面には砕けた蜂の死骸で埋め尽くされた。
「あの、ウェインさん。私の護衛とか要らないんじゃないですか…?」
尊敬とともにライムは尋ねる。当然、その言葉は『アウレリア』を振る動作の中で発せられている。
「そんなことありませんわ。私はどうしても背中の警戒が苦手なので、とても助かりますわ」
と、軽く70体近くの蜂を葬ったお嬢様が特上の微笑みを浮かべた。
うわ、やっぱ格が違うー、とライムが内心畏怖を覚えながら、見た。
海から、恐ろしくでかい魚の口が、こちらを向いているのを。
「ウェインさん! 魚龍が――」
「分かっています」
「え!?」
放たれた水ブレスは、まっすぐライムに向かっていき、
「――っ!」
当たる寸前で逸れた。
「……えっ?」
もう一度疑問符を浮かべるライムに、ウェインは微笑み、
「私の属性は水神。そして、属性系守護者は、その系統の物質に魔力を流すことで操る力も持っているのです。よって、『水』で形成されたブレスなど、私にとっては何の障害にもなりませんわ。――いろいろ制約はありますから、あまり頼らないようにはしておりますが」
「……じゃあ、どうしてあんなにボロボロになってたんですか?」
ライムの問いに、ウェインは少し顔を歪め、
「……女王蜂の討伐中に、どこからか凄まじい数の蜂がわいて来まして、それの対処に焦っていたら水ブレスが飛んできて――」
「――それで、ですか」
「いえ、そうではないのです」
「え、じゃあ……」
「その時点で私はなかなか手一杯だったのですか、二回目の水ブレスと同時にどこからか大岩が飛んできまして……。おそらく原始龍のものだと思うのですが、当たって吹き飛んだ私の体に蜂の針が無数に……」
「……(ゴクリ)」
「そして、残った力を振り絞って水流を生み出して、それに乗って、何とか撤退したのです」
「そうだったんですか……。じゃあ、私も頑張らないといけませんね!」
「よろしくお願いしますわ」
そうして、二人の共闘はしばらく続く。