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「傷は……よし、ちゃんと塞がってるわね」

「あんな大穴が空いたのに、跡が残らないってすごいですね」

 しっかりと閉められたカーテンの向こうからの二人の会話を聞いて、カレルは安堵していた。……このカーテンの向こうではライムは―――、という妄想はないではなかったが、下手なことをすると本気で殺されかねないので必死に理性で押さえつける。

「おーすカレル。復活したか?」

「ああ、傷は塞がったみたいだ。迷惑かけたなタッカ」

「ま、オレとしては、カワイコちゃんの代償が、カレルの大怪我で済んだんだからラッキー、って感じ」

「お前は……!」

 瞬間、怒りから勢いよく上体を起こし―――

 バリバリバリ!

「あばばばばばば!」

 ―――電流をもろに浴びた。

「はははっ! カレル、お前もこういうことがあるんだな?」

「……お前、気づいてたろ?」

「当然!」

 今度こそカレルはブチ切れそうになったが、やめる。先ほどの電流が体の支配権を奪って身動きが取れないからだ。

「カレルー? さっきの悲鳴はー?」

 隣からは先の悲鳴を聞いてアリスが声をかけてきた。

「……ああ、大丈夫だよ。――でも、頼むからこの電流を解除してくれ…」

「えっ……? あれにかかったってことは――」

 この前置きから、強烈な誤解をされていることは想像に難くない。

 が、弁明の余地もなく、アリスは結論を出してしまった。

「―――ライムの裸が見たかったのね!? きゃっ❤」

「…………」

 こちらからは見えないが(見えたらカレルは殺されるだろう)ライムがすごいじと目でこちらを見ていることは容易に想像できる。

「いや、そういうわけじゃなくて! タッカにハメられただけなんだ!」

 誤解を解くべく、カレルは必死に声を上げるが、

「じゃあ、ライムの裸を見たくないの?」

「ちょ、アリスさ―――」

「そんなわけないだろ!」

 やってもうた。(byカレル)

「……カレル……きっぱり言われると恥ずかしいよ……」

「……ライム。……今のは忘れてください…」

「……はい」

 何ともいたたまれない雰囲気。なぜこんなことになったのか。

「はははっ。カレルも男だったんだな!」

「黙れタッカ。斬るぞ」

 

 

 

 その後、アリスに従い、医務室を出て綺麗な廊下を歩いていく。

「そういえばライム。ここに来る前のことって覚えてるか?」

「えっ? いきなりどうしたのカレル?」

 突然の質問にライムは首をかしげるが、カレルは構わず続ける。

「つまり―――、なんで死んだのか覚えてるか? ってこと」

「「―――っ!?」」

 カレルの一言で横の二人は凍りつき、ライムは大きな衝撃を受けた。

 全員の足が止まったのは言うまでもない。

「……どういう、こと?」

 カレルの横では二人が眼を伏せた。

「隠しても無駄だから先に言っておくと、俺たち守護者は“ありえないこと”によって殺されて、理を守るために存在を抹消された奴の集まりなんだよ。消えゆく俺らに“父”が使命と引き換えに、命と力を与えた、ってこと」

 突然の大暴露でライムの頭はショートしそうになるが、必死で理解しようとする。

「んで、今のところ、ほとんどの守護者は生前の記憶をほとんど残していない。でも、理をひっかき回してる奴がいるのは確かだから、少しでも情報がほしいんだ」

「じゃあ……私は、一度、死んだってこと……?」

「ああ、ここにいる全員がね。ちなみに、最初の守護者は150人くらいで、一度に生まれた。……どういうことかわかる?」

 ライムはその言葉の意味を理解して…口を開く。

「つまり……一度に150人が、ありえないことによって…殺された」

「……そうだよ。んで、この支部で後から来たのはライムが初めてなんだ」

「じゃ、みんな先輩なんだ……すみませんカレルさん。敬語使ってませんでしたね」

「まぁ、使いたかったらどうぞ。……んで、アリス。どこで紹介するの?」

「食堂よ。みんな呼んであるわ。……ライム、さっきの話は気にしないでね? 私たちは悲しんでなんかいないから。あなたも気に病んじゃダメよ。私たちは、今、ちゃんと生きているから」

「はい……」

 それからしばらく歩くと、大きな扉にたどり着いた。

「ここだよ」と、カレル。

「みんないい人だから、大丈夫よ」と、アリス。

「緊張してる?」とタッカ。

 タッカの問いには「少しだけ」と答え、ライムは扉を開けた。

 そこでまず、目にしたものは、

 《ライム・K・アウレリアさん、第7支部入隊おめでとう!》

 と書かれた横断幕だった。周りには20人ほどの人が10人ずつ長テーブルにつき、そのテーブルには所狭しと豪勢な料理が並べられていた。

「これ、紹介必要か?」

「まあ、やっぱ要るでしょう。じゃ、ライム、頑張ってね」

「はい」

 言って、ライムは前に進み出る。

「えっと、ライム・K・アウレリアです。これからよろしくお願いします!」

 ライムの自己紹介が終わると、みんなは口々に歓迎の言葉を述べていく。

『おう、よろしくな!』

『期待してるわよ!』

『可愛いな~』

「ってか、ライムの席は?」

 カレルが声を上げると、茶髪でサングラスをかけたもじゃもじゃ頭の少年が―いや、分かりやすく言うとアフロな上に服は真っ黒な皮ジャンで、完全なヤンキースタイルである―が前に出て、

「こっちですよ、ライムさん」

「ひ、ひぁっ!?」

悲鳴を上げるライムの手を取り、真ん中の方の空いている席に案内していった。ご丁寧に、カレルたちの席も確保してある。

 その流れで、少年(?)は自己紹介を始めた

「初めまして、ボクはジャン・H・ライプニッツ。ここのショップのオーナー兼技術屋をやっています。よかったらぜひ――」

 見た目とは完全にミスマッチな軟らかいしゃべり方でライムが安心していると、途中でカレルの横槍が入った。

「あー、ジャン。猫被ってもどうせばれるんだから、素でいいと思うぞ?」

 カレルのツッコミを受け、ジャンは「ちっ」と舌打ちをしてから、自己紹介をやり直した。

「おれは、ジャン・H・ライプニッツ。ショップのオーナー兼技術屋だ。よかったらっつーか、うちのショップなしにお前らはやってけねーから、バンバン買い物してってくれ。もちろん、エr―――ってえ!」

 今度はアリスの踵が、ジャンの小指を踏み抜いた。

 …やっぱりそうですよねー。とライムは内心思った。

「そこより先の紹介は要らないから! ライムに変なことを教えないの!」

「……まあ、見ての通りこいつは変態だが、技術は超一流だから、信用はできるよ。あくまで技術は。技術だけは」

 カレルのフォローで、ライムはジャンのことを、「超一流の変態ヤンキー技術屋さん」と認識した。

「は、はは……よろしくお願いします」

「ああ。用があったらいつでも来な」

 そのあと、全員からの自己紹介を受けた後、みんなで食事会を楽しんだのだった。

 

 

 

「あれ、そういやエルジラは?」

 食事会が終盤に差し掛かり、デザートを待ってるところでカレルは口を開いた。

「ああ、そういやパーティーが終わったら来るとか行ってたね」

 タッカが言った瞬間、食堂の扉が開き、エルジラが入ってきた。

「やあ諸君。食事会は一段落ついたかな?」

エルジラが登場した瞬間、みんなの注目が彼に集まる。

「では、ライム。ちょっとこちらへ」

「は、はい」

 呼ばれて、ライムはエルジラの元へ歩いていく。

「あと、タッカ、カレル、ウェイン…は、いないか。前へ」

「「はい」」

 二人もライムの後について歩いていく。

 そして、ライムがエルジラの隣、カレルとタッカが向かい合う形になったところで、エルジラは話し始めた。

「ライム。君はこの支部に配属されるわけだけど、いきなり戦場の放り出されても困るだろう?」

「はい…」

 というか、戦場の真っただ中から始まった気がするが。

「そこで、だ。暫くの間研修期間として、彼らの中の一人のもとで実力をつけてもらう。じゃ、カレルから」

 エルジラに促され、カレルは前に出る。

「第7支部遊撃部隊隊長、カレル・R・イメシスレイ、属性は氷皇。主に剣術と魔法を教える予定」

 説明を終え、カレルが下がると同時に、タッカが前に出る。

「第七支部遊撃部隊副隊長、タカタカ=タッカ、属性は嵐帝だよっ。体術や、基礎力を鍛えようと思ってる」

「あと、今はいないが、ウェイン・M・アクアラインという討伐隊隊長も選択肢だ。女性で、恐らく魔法や、集団戦闘の技能が主だろうな」

 タッカの説明の後に、エルジラが3つ目の選択肢を提示した。

「えっと、一応聞きますけど、エルジラさんは?」

「私は忙しい」

「じゃ、このほかに選択肢はありますか?」

「いや、3人の中から選んでくれ。お前を守りながら戦う余裕があるのはこいつらくらいだ」

「でも、カレルさんは―――」

「言っておくが、あの時君を助けたカレルは端末もなく、魔力も無きに等しい状態だった。しかも壮絶な任務帰りだったこともある。その時のことは基準にはしない方がいい」

 フォローを受けたカレルは、やや気まずそうに下を向いた。どんな理由があったにせよ、ライムを守れなかったことは事実なのだ。

「今……決めなきゃダメですか?」

「いや、急ぎはしないが、できれば明日までに頼む」

「そう……ですか。少し、考えさせてください」

「そうか、分かった。決まったら私の端末に連絡を入れてくれ。……では、宴を再開しよう。存分に楽しみたまえ!」

 エルジラが言うと同時に、大量のデザートが運ばれてきた。

 その後―――エルジラは去り、皆でデザートを食べつくし、カレルとタッカを除いたみんなでライムを案内した。

 

 

 カレルの端末に、「担当者は君に決まった」というメールが来たのは、その日の深夜のことだった。

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