「んで、ここが出撃用ゲート――『転移大砲(テレポトカノン)』だよ」
一度部屋に戻って、デザインは全く同じだが繊維が丈夫な戦闘仕様の服に着替えた二人は、第7支部の屋上に来ていた。(よく考えたら銃送ってもらわなくてもよかったな、とカレルは思う)
屋上はまるで針のない時計盤をイメージさせ、時計盤で数字が置かれているところには円状のワープ装置が設置され、それと中心点から結ばれた直線をなぞる方向に矢印が伸びている。そして、それぞれのワープ装置の近くには、ウンターでティオからもらった機器を差し込むための装置が設けられている。ちなみに、世界の狭間でも雨は降るので、雨対策の結界も完備である。
二人が一時の位置の装置に乗り、機器を差し込むと、『転移(テレポト)大砲(カノン)』が起動した。
「あ、そういや言い忘れたけど――」
『転移大砲(テレポトカノン)』が刻々と発射準備を整えている中、あからさまな死亡フラグの気配を感じたライムは、カレルの方を振り向く。
「な、なんですか?」
「――これ、めちゃくちゃ気持ち悪くなるよ」
――やっぱりーー!
ライムが思った瞬間、『転移大砲(テレポトカノン)』は発射された。
世界の狭間でも村や集落などができる。
この場合の住人達はさまざまな世界の影として存在しているもので、体だけでなく、魂に至るまでコピーされている。(守護者は、魂ごと存在を世界の狭間にはじき出されたイレギュラーな存在)しかも、狭間に影として存在している時点で独立しているので、元の世界が消滅したとしてもそこにあり続ける。(もっとも、敵対生物も同様なのだが)
つまり、それらの集落と守護者たちは友好関係を築いているわけであり、
「―――うぐ……気持ちわりぃ……」
「わ、私も……。こんなに辛いとは思いませんでした……」
「あ~あ~。ま~ぁゆっくり休みなされ~」
――『転移大砲』で酔った守護者を介抱する体制も整っているのである。
今二人がいるのは第7支部から北北東に30kmの地点にある村である。ちなみに、長さなどの単位はほとんど『現実世界』と同じものを使っている。方角だけは『現実世界』のある地点を中心として、16方位+裏表90度であらわされている。
この村はとある世界の村の影としてできた村で、守護者たちからはハンタ村と呼ばれている。村には支部へ依頼を送る端末や、総じてよく食べる守護者のための、食料を調達するハンターたちの宿舎などがある。この辺りは割と危険地域のため、このハンターたちは少数精鋭で3人ほどが常駐している。彼らのおかげで安定して食料は準備されている(ここ重要)。たまに彼らに応援を頼むときもあるが、そもそも依頼が来るのは彼らでは手に負えない時なので、あまり出番はない。しかし、守護者たちは安定して食料を準備しておいてくれる(ここ重要。とても重要)彼らに感謝している。
ちなみに、今カレルたちを介抱しているのはハンタ村の長老さんである。女性で、身長はかなり低くカレルの腰ほどまでしかない。放牧民のような民族的な衣装には、上下とも白をベースにところどころ赤のラインが入っている。名前は不明。
「――んで、長老さん。ウェインはいつごろここを出たんだ?」
地べたに敷かれたござに横になりながらカレルは聞いた。
「あ~あ~。そうじゃのう~……だいたい1日前かのう~」
「ってわけだから、そろそろ行こう。あんまり余裕はなさそうだ」
「そうですね。――まだ気持ち悪いですけど……」
「んじゃ、長老さん。ありがとうね」
「ありがとうございました」
「あ~あ~。一応ハンターさんたちに話を聞いてからお行きねぇ~」
「了解」
二人はお礼を言って、ハンターたちの宿舎を訪ねた。
宿舎は入口は一つで、中に入ってから部屋が分かれる仕組みになっている。リビングは共用で、そこで作戦会議などをするために使われている。
コンコン
『どうぞ~』
ガチャッ
「おす」
カレルが宿舎に入ると、珍しく三人のハンターが揃っていた。
太刀使いスレイ・ライグベルン。
ボウガン使いフェン・ステイヤード。
弓使いユラ・ステイア。
「おう、久々じゃなカレル! 元気じゃったか!」と、テンション高で爺言葉が混ざった大男はスレイ・ラングベルン、
「久しぶりですね。元気そうで何よりです」と、クールな優男はフェン・ステイヤード、
「…………そっちの人は?」と、クールを通り越して無表情な冷え嬢はユラ・ステイア。
と、カレルは話の合間に紹介を済ませていた。
「あ、えっと、私は新しく守護者になった。ライム・K・アウレリアです」
「…………そう。よろしく」
「よろしくなライム!」
「よろしくお願いします」
「…さて、あいさつも済んだし、本題に入るか」
カレルの一言で、空気が切り替わる。
「まず、ウェインさんの場所ですが、ここから南西に8キロ行ったところにある密林地帯です」
「ずいぶん近いんですね……」
「ええ。ですから私たちは待機しているのです。魚龍程度なら狩るのに苦労はしませんが、女王蜂の大量発生は手が付けられなくて」
「そっちはあらかたウェインが狩ったんじゃが、運悪く魚龍が突然現れてのう……。それもあってか取り巻きの蜂をさばききれなかったようじゃ」
「…………いずれにせよ、放置は危険」
「なるほどな……。時にだけど、食料は――」
「「「当然、準備済み(じゃ)(です)(……)」」」
「流石!」
「……あの、なんで突然食料なんですか?」
三人の準備の良さと、突然のカレルの食いしん坊発言に、ライムは首をかしげた。
「何でって……、たぶんウェインはぼろぼろだから、傷の治療に食料が必要なんだよ。守護者の体組織は食料を分解した魔力で構成されてるからね」
「なるほど……」
「じゃ、もう出るよ」
「カレル、食料はこれを」
と、立ち上がったカレルにフェンは保管庫からやや大きめの袋を渡す。
二人はハンターたちに礼を言って、村を後にした。