「……カレル。なんで嘘をついたんだ?」
ロボに向けて走りながら、タッカは聞いた。
「…は? 嘘はついてないよ」
「お前って、嘘つくときだけポーカーフェイスすごいよな。オレくらいだと思うぞ、お前の本気の嘘に気づけるの」
言われてカレルはため息をついた。流石は親友である。
「別に。あそこで強かったら連れてく、とか言ったらあいつまた変に気負って空回りするし、意地張られて着いてくるとか言われても面倒だったからね」
理由自体は、普通にメジャーなものである。しかし、タッカがわざわざ理由を聞いたのはとある事情がある。
「珍しいな。お前がそんなに気遣うなんて。…あいつ以来じゃないか?」
「…そうか? 俺はいつでも気遣いはしてるぞ」
はは、とタッカは苦笑いした。相変わらず、不器用なやつだ。
「カレル」
「何?」
「あとで女の子と仲良くするコツ、教えてやるよ」
瞬間、タッカに足払いをしたカレルだが、直後に頼む、とぼそっとつぶやいた。
「内緒話は終わりましたか?」
「さっさと行こうぜ」
「ああ」
少し距離を取ってもらっていたウェイン、ティオと合流し、再びロボへと向かっていく。
数分後、巨大ロボと対峙する。
至近で見ると40mの巨体の威圧感は尋常ではない。何しろ身長差は20倍は越えているのだ。
「二人とも、狙うなら右足の側面を狙って。さっきの爆発の時、そこに冷気を集中させたから温度変化で脆くなってるはず」
「「はいよ」」
ロボもこちらに気づいて、巨大な拳を振り下ろしてくる。隕石が落ちたかのような打撃に、躱した4人も背筋が凍る。
続けて、打撃ではラチが明かないと判断されたのか、両手のひらに内蔵されたガトリングで弾幕が張られる。雨のような弾丸の合間を縫いながら、タッカとティオは肉薄していく。しかし、後数十メートルといったところで、右足の脛の部分が唐突に開いた。そこから見えたのは、砲身が2mを超えるビーム砲だった。
「「!!!」」
放たれた極太ビームを紙一重で躱した二人に銃弾が降り注ぐ。直撃は避けてはいても体勢を崩している状態ではよけきれるものではない。銃弾に肌をかすめられ、じりじりと体力が削られていく。
「タッカ、ティオ!」
カレルの声が響く。
上を見上げると、こちらを踏みつぶそうとする巨大な足が―!
「くっそぉおお!」
雄叫びをあげながら、受け身も考えず横に飛び退く。地面に転がりながらタッカは思う。この後の銃撃はよけきれない。少なくとも今の速度は維持できなくなるだろう、と。
だが、
「決めろよ!!」
「!」
カレルの続く言葉で、タッカは覚悟を決めた。
よけきれないなら、攻めれる体勢に―
「『滑後転倒』(スリップステップ)!」
初めて聞く魔法名が聞こえたと同時に、こちらを潰そうとしてきた足の着地点に氷が張られる。名前からしてあれは―
ドォン!(ロボの足が氷の膜に着地する音)
ゴォッ!(氷の膜で思いっきり滑ったロボの足が空気を切り裂く音)
ゴォン!(限界まで持ち上がったロボの足が頭に激突する音)
(エグイな、この魔法…)
思ったが、口には出さない。
「タッカ!」
ティオが叫ぶと同時に、ロボに向けて全力で踏み出す。強烈な念動力のアシストによって極限まで加速しロボに肉薄したタッカは、渾身の力で右手の神器の爪を突き出した。
ズドォン! という音とともに、脆くなったロボの右足に衝撃が走る。ビキリ、という音が右手から響いたが、問題はない。役目は果たした。
音を立てて崩れていく装甲に、ウェインが接近する。
「お休みなさい」
微笑とともにロボの体内の空間が水で満たされていく。水に濡れたことで内部がショートし、ロボの動きが阻害される。
そして、カレルはウェインと入れ替わりでロボに近づいた。
「終わりだ、爆ぜろ!」
一瞬で、水が凍りつく。
まるで脱皮をするかのように装甲が弾け飛び、中から全く同じポーズをした氷のオブジェが姿を表した。
「やった、な」
装甲が勢いよく弾け飛んだことで周囲は少々大惨事だったが、巨大ロボットの脅威はなくなった。
「ライム、いよいよだな」