数十分後、救援隊が着きカレルたちは無事支部へと収容された。
まぁ、当然といえば当然なのだが、二人は即刻医務室へ運ばれ、長身の緑髪翠目の少女―――アリス・M・アスクレピオスに手当てを受けていた。
「カレルのほうは全治1週間ね。胸に大穴空けて1週間で治るんだから、守護者の体に感謝してね…いや、タイミングの悪さを呪いなさい、の方がいいかしら?」
「全くだよ…」
カレルの胸の傷は、粘質化された魔力で塞がれていた。
「で、あなた―――確かライムだったよね」
「はい、ライム・K・アウレリアです」
「外傷自体は、ほぼ完璧な応急処置のおかげで1週間で完治すると思うわ。でも……」
「でも、何ですか?」
「…ちょっと面倒なことになってね、あなたの心室(コア)の中身が大分無くなっちゃてるのよ」
「あの、ちょっと聞きたいんですけど、心室(コア)って何ですか?」
「え、カレルから説明されてないの?」
「そんな余裕なかったよ……。悪い、説明頼むわ」
「はいはい。まあ簡単に言うと、私たちの魂の保管庫よ。多少――例えば、胸に大穴空けたくらいじゃ私たちは死なないけど、コアの中の魂を壊されたら即死よ」
「それは…私の中のどこにあるんですか?」
「左胸よ。ちょうど心臓の位置ね。それと、心室(コア)の中には守護者であるための力の源が―――」
「…あの、守護者って何ですか?」
「……(キッ!)」
「……(スースー)」
アリスが、それも教えてないの!? という目でカレルを見たが、カレルはすでに静かな寝息を立てていた(寝たふりであることは言うまでもない)。
「まあいいわ。守護者の本名は、『理の守護者』よ。要するに、“ありえない事”、“理不尽”を排除するのが私たち守護者の役目よ」
「じゃあ、私ももう守護者なんですか?」
「そうよ。私はアリス・M・アスクレピオス。第七支部の医務担当よ。これからはちょこちょこ顔合わせると思うから、改めてよろしくね。」
「はい! よろしくお願いします。」
「じゃあ、私は用事があるから行くね。聞きたいことがあったらカレルに聞いてね。一応この支部の遊撃部隊長だから。」
そう言い残してアリスは去っていった。
数秒後、
「ねぇカレル。起きてるでしょ?」
「…起きてるよ。体は起こせないけど。」
「いろいろ教えて欲しいことがあるんだけど、いい?」
何気に混ぜたジョークはスルーされたが、気にした様子もなく(実は傷ついた)カレルは答える。
「いいよ。答えられる範囲でよければ」
「ありがとう。まずは、カレルが使ってた魔法について教えて」
「はいよ。魔法っていうのは、俺たちの体内や空気中にある極小の粒子の魔力に指示を与えたり、変質させたり…方法はけっこうあるけど、要するにいろんな現象を起こす技術だよ」
「カレルは…確か氷の弾を飛ばしてたよね」
「ああ。人それぞれ扱える現象は決まってるんだよ。俺は『氷皇』の属性だから、氷とか、冷気とか、凍結とかいろいろ使えるんだ」
「便利なんだね。私は何だろ?」
「…調べてみる? ちょっと手出して…」
カレルはライムの手を握り、ライムの魔力を感じて一言。
「分からん」
「………」
若干呆れられてる気はするのだが、ホントに分からない。
「…ひょっとして、『属性』が流出したのかも」
「ええ!? じゃあ私は魔法が使えないの!?」
まさかの事態に驚きを隠せないライム。しかしカレルは、
「いや、ちょっと不思議なんだよ。『属性』がない『無属性』の守護者も多いんだけど、ライムは何かの『属性』のベースはある。でも、肝心なところがない、みたいな感じ」
「なるほど…。じゃあ、『無属性』の魔法で頑張るしかない、ってこと?」
「うん。まぁ、大丈夫だよ。補助道具もあるし。…てか修理に出してたやつがそろそろ来るはずなんだ――」
けど、とカレルが言った瞬間、医務室の扉が開いて、黒い長髪を後ろでまとめ、右目に眼帯をした黒目の少年が入ってきた。
「やあカレル。体調はいかがかな?」
「良いように見えるか?」
「ハイこれ。ジャンから君にだそうだよ。」
カレルの突っ込みを軽くスルーして、少年は包みをカレルに放った。取りそこなったカレルが傷口に包みが当たってのた打ち回るのを無視し、ライムの方に向き直る。
「君が新しい守護者かい?」
「は、はい。ライム・K・アウレリアです。」
「そうかい。ボクはエルジラ・Y・ベルフェゼーレ。ここ第七支部の支部長だよ。よろしくね、ライムさん?」
「はい…こちらこそよろしくお願いします。」
「ああ、そういえば君にも荷物があったね。はい、これだよ」
エルジラは小さな包みをライムに差し出した。隣でカレルが「なんだこの扱いの差は…」とぼやいているのはまたもや無視された。
「これは、守護者として活動するうえで必要な端末だよ。使い方はカレルに聞いてくれたまえ」
「わ…分かりました。」
「あ、そういえば、何で増援が誰も来なかったんだ?」
用が済んだところでカレルが気になっていたことを聞くと、
「あ~~…まぁ、増援要請で人は集まったんだが…」
「集まったんだが?」
「依頼主がカレルということを知った瞬間、『いたずらじゃね』と言ってみんな取り消して……」
「……お前、フォローした?」
「すると思うか?」
「一発殴らせろ」
「カレル……」
ライムはどう反応していいのかわからず、苦笑いを浮かべている。
「仕方あるまい、君の日ごろの行いのせいだろう? では、ボクは行くよ」
そういってさっさとエルジラは出て行った。
「じゃあ、せっかくだからその端末の説明をするよ」
「あ、うん。お願い」
「その端末にはいくつかの機能があって、
① 魔法陣の記録、呼び出し。
② 他の守護者との通信。
③ 任務の確認、マップ表示。
④ ポーチとしての役割。
って感じだよ。ほとんどはこの4つの機能しか使わないかな。あとは任務の報酬は自動で端末に振り込まれるんだ」
「へぇ~、便利なんだね。この包み、開けてもいい?」
「もちろん」
ライムが包みを開けると、腕時計のように手首に巻くタイプの液晶端末が顔を出した。
「付けてみたら?」
「そうだね」
ライムは端末のベルトを手首に巻くと、自然に電源が入った。
が、
「……ねえカレル。気のせいか力を吸われてる気がするんだけど……」
「あ、言い忘れてた。それは使用者の魔力で動くから、最初に着ける時に使用者から魔力を吸い取るんだよ。そんな多く吸われるわけじゃないから大丈夫。それに、魔力がなくなったときの予備電源もあるしね」
「ならいいけど…っと、終わったみたい」
ピピピ……充電(チャージ)完了。
「とりあえず、連絡先だけでも交換しとかない?」
「あ、うん。…あ、でもやり方知らない…」
「端末をこっちに向けて、交換したい、って意思を作れば自動でやってくれるよ」
「えっと、こうかな?」
ライムが端末を向けるのと同じく、カレルも端末をライムに向けた。
ピピッという電子音とともに、連絡先が交換される。
「これでよし。何かあったら連絡してね」
「うん、よろしく!」
「あ、実はこの端末、最近はいろんなタイプがあるみたいだから、そのうち選びに行こう」
「そうなんだ…じゃ、よろしく!」
その後、簡単に他の機能の説明をしていると、扉が開いて、新たな来訪者が訪れた。
「おーっす! カレルー、だいじょぶか?」
「ああ、大丈夫。――っと、ライム、コイツはタカタカ=タッカ。効果音みたいなふざけた名前だけど、遊撃部隊副隊長だよ。」
カレルの手ひどい紹介を受けて、黄緑色のショートへアに、翠色の目の少年は苦笑しながらライムに向きなおった。
「よろしくな、―――っと、ライム…で良いんだよな?」
「はい、ライム・K・アウレリアです」
「う~ん……美人だっ! 体が治ったら、オレがいろいろ教えてあげるから楽しみにしててねっ!」
「……いきなり口説きにかかるとは、流石タッカ。……ちなみにライム。案内を頼む人は自分で指名できるから安心して」
「は、はは……よろしくお願いします、タッカさん」
と言いつつ、ライムは実際はタカタカ=タッカという名前に驚愕していた…。
「よろしくライム! …それよりカレル! こんな可愛い子が近くで寝てるからって襲い掛かるなよ?」
「お前じゃあるまいし……。ま、俺もさっき気が付いたんだけど―――」
言いながらカレルは端末が入っていた包みを丸めて、放り投げる。
「―――セキュリティは万全らしい」
包みは宙を舞い、ベットから出ようとした瞬間――
バリバリバリ!
「「……え?」」
包みに電流が流れ、黒コゲになっていた。
「まったく、アリスの奴め…。そんなに俺が女に飢えてるように見えるってのか…?」
「はははっ! 流石はカレルだな、扱いが普通じゃない」
「…………(じーっ)」
ライムのじと目がとても辛い。
「……いや、これは俺が勝手に歩き回らないように、との措置だと思うよ。電流が流れるのは一直線上だけみたいだし」
そっちに関しては前科あるし、とカレルは続けた。
「……じゃあカレルとライムちゃん。オレは戻るよっ」
「そか、見舞いありがとな」
「回複したら、いろいろお世話になります」
「じゃあねライムちゃん! キミが回復するのは支部のみんなが待ってるから、しっかり養生してね♪」
「はい!」
そういって、タッカは去って行った。
そのあと、カレルたちはこの日の疲れが出て泥のように眠った。
そして、一週間がたった。