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 傷と、魂を削った痛みで朦朧とするカレルは思う。

(ライムは…勝てない…!)

 音速にカウンターを合わせる化け物だ。多少傷ついたからといって、ライムが反応できる速度ではない。それに、ライムが『月』の『特異点』といっても、今この場で何ができるというのだろう。

 そうこう考えている間にも、状況は動く。

 ライムは『アウレリア』を水平に構えた。

 対する狼も、足に力がこもっているのがわかる。

 

 再び引き延ばされた一瞬が訪れる。

 

 思わず目を瞑ったカレルには、何が起こったかはわからない。

 狼は、すでにライムの後方に移動しており、ライムは右手を振り切っている。

 不気味な数秒の間の後、

 

 狼は、首から血しぶきをあげて地に倒れ伏した。

 

 

 

(はぁ、はぁ…今のは、何だったの?)

 周囲の歓声も耳に入らず、ライムは先ほど起こったことを思い返していた。

 突然、ライム脳裏に浮かんだのは、狼が飛びかかってくる軌道。

 それと全く同じ軌道で飛びかかってきた狼。

 反応はできなかったが、爪を躱して切る、というように体を動かしたら、勝ってしまった。

 偶然か、それとも――

 と、考えていると、立ち上がり、こちらを向いた狼が話しかけてきた。身構えたが、敵意のようなものは感じられない。

(見事だ。今から汝に仕えよう)

(え? …えっ?)

 事情が呑み込めないライムに、狼は続ける。

(我は、『神』より汝に仕えるよう申し付けられている。改めて汝は資質を示した。)

(そ、そうなんですか? それで、あなたの名前は…?)

(我はメルル。契約を行う。手を)

(は、はい)

 言われるがまま右手を差し出す。狼は光となってライムの手のひらに吸い込まれていった。完全に吸い込まれた後の右手のひらには三日月の入れ墨ができていた。

 その瞬間、ドーム状の結界は霧散し、改めて守護者たちの歓声が上がるのだった。。

 

 

 

 

「はは…一気にライムは存在感がでかくなったな…」

「そ、そうですか?」

 傷のため動けない(というか動きたくない)カレルはメルルの背中に乗せてもらっていた。当然ライムも一緒に乗っている。

「ああ。『特異点』に加えて相棒持ちは数えるくらいしかいないよ」

 カレルの言葉でライムは少し照れくさそうに笑った。

「カレルさんは相棒いないんですか?」

「いや、いるよ。今帰省中だけど」

「帰省とかあるんですか!?」

「そうなんだよ。もう4カ月くらい戻ってないね」

「私なら家出を心配しますね」

 くだらない会話をしながら、二人は支部への帰り道を進んでいく。あ、帰りにハンタ村に寄って――

 

 …ハンタ村?

 …ハンタ村は、どうなった?

 

 ぶわっと、一瞬にしてカレルから冷や汗が噴き出す。

 確か、ほとんどの守護者はこっちに来たはず。

 ハンタ村の装備では、ロボの相手は分が悪い。

「ライム、今すぐハンタ村に向かってくれ!」

「え、いきなりどうしたんですか!?」

 突然間近で大声を出されて驚くライムだが、カレルの言いたいことがわかってすぐにメルルに指示を出した。

「カレルさん、私につかまってください!」

 景色が後ろに吹っ飛ぶような速さ。

 カレル脇腹の傷が広がるのを感じながら、必死にライムにしがみついた。

 

 

 

 数分後、ハンタ村に到着して、まずはロボがこちらにも来ていたことに焦り、すでにすべてのロボが倒されたことに驚いた。

 ハンターたちの話を聞く限りでは、ロボたちに応戦していたら、初めて見る男の人が魔法らしきものを使ってロボを殲滅し、何も言わずに突然消えたという。

そして、その男は赤いローブを着ていたらしい。

 

 

 

 黒い影に体を預けながら、赤いローブの男は笑う。

「あの時の少女は『月』の『特異点』…か。月を食らう狼を従える月の守護者…。これは思わぬ拾い物だったな」

 男がパチンと指を鳴らすと、黒い影が男を呑み込んでいく。

「しかし…。今の守護者は心許ないな…。『水神』、さらに『自然』の『特異点』不完全とはいえ『氷皇』、『嵐帝』、『冷眼』、『癒姫(りょうき)』がいてこの様とは…。これは、私が動く必要があるやもしれぬな」

 完全に男を呑み込んだ暗い影は、一瞬にして霧散した。

 その後には、何事もなかったかのような風景が広がっていた…。

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